産業医面談の基準は1つではなく、場面ごとに対象者も、会社の義務の有無も違います。数字で基準が決まっているのは、長時間労働者と高ストレス者への面接指導などの一部です。健康診断後の医師の意見聴取は、異常の所見があった労働者が対象になります。復職の面談と従業員の健康相談には、数字の基準はありません。
この記事は、従業員50人未満の中小企業の人事・総務担当者に向けて、産業医面談が行われる5つの場面を整理します。「誰が対象か」「どんな基準か」「義務か任意か」「面談で何を扱うか」を、労働安全衛生法と労働安全衛生規則の条文(e-Gov法令検索)と、厚生労働省の資料で確認できた範囲で示します。詳しい進め方は、場面ごとの専門記事に案内します。
・産業医面談が行われる5つの場面
・場面ごとの対象者と基準
・義務か任意か
・面談で扱う内容
・産業医がいない50人未満の会社の頼み先
産業医面談は場面によって、対象も基準も義務も違う
産業医や医師が労働者と話す場面は大きく5つに分けられ、場面ごとに対象者・基準・義務の有無が異なります。ここでは、5つの場面の早見表で全体を確認したうえで、数字で基準が決まっている場面がどれかを整理します。
5つの場面の早見表
産業医や医師が労働者と話す場面は、大きく次の5つです。「面接指導」は、医師が問診などで心身の状況を確認し、面接で必要な指導を行うことを指す法律上の言葉です(労働安全衛生法第66条の8)。
| 場面 | 対象者 | 基準 | 義務か任意か | 面談で扱う内容 |
|---|---|---|---|---|
| 長時間労働者の面接指導 | 時間外・休日労働が多く、疲労がたまった労働者 | 週40時間を超えた時間が月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められること。本人の申出 | 申出があれば会社の義務 | 勤務の状況、疲労の蓄積の状況、心身の状況 |
| 高ストレス者の面接指導 | ストレスチェックの結果、面接指導が必要と実施者が認めた労働者 | 実施者(医師等)の判断。具体的な選定基準は事業者が決める。本人の申出 | 申出があれば会社の義務 | 勤務の状況、心理的な負担の状況、心身の状況 |
| 健康診断後の医師の意見聴取 | 健康診断で異常の所見があった労働者 | 異常の所見があること。健診の日から3か月以内に聴く | 医師の意見を聴くことは会社の義務。本人との面談は必須ではない | 就業上の措置についての意見(通常勤務・就業制限・要休業の区分など) |
| 休職者の復職に関する面談 | 休職中に復職を申し出た労働者 | 数字の基準はない。国の手引きが判断の流れを示す | 手引きは法令ではなく、事業者が行う職場復帰支援の内容を示した国の手引き | 主治医の診断書の内容、労働者の状態、就業上の配慮 |
| 従業員が任意で受ける健康相談 | 相談したい従業員 | 本人の希望 | 相談は任意。会社は体制整備の努力義務 | 健康に関する相談 |
数字で基準が決まっている場面は一部だけ
数字が出てくるのは、次の3つです。
- 長時間労働者の面接指導:週40時間を超えた時間が月80時間を超えること
- 高ストレス者の面接指導:申出があってから、おおむね1か月以内に実施すること
- 健康診断後の意見聴取:健診が行われた日から3か月以内に行うこと
高ストレス者かどうかの点数の線引きは、条文では決まっていません。実施者の意見と衛生委員会などでの調査審議を踏まえて、事業者が決めます(厚生労働省「ストレスチェック制度実施マニュアル」)。復職の面談と健康相談にも、数字の基準はありません。
面接指導の実施は会社の義務ですが、多くは本人の申出から始まります。申出がない場合の扱いは、場面ごとの節で示します。
長時間労働者の面接指導|月80時間超と疲労の蓄積、本人の申出が基準

長時間労働者の面接指導は、1週間あたり40時間を超えて労働した時間が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者の申出を基準に行います。ここでは、対象者と基準、時間の算定・通知・記録などの会社の役割、面談で医師が確認する内容を整理します。
対象者と基準
対象になるのは、次の3つをすべて満たす労働者です(労働安全衛生規則第52条の2第1項・第52条の3第1項)。
- 休憩時間を除き、1週間あたり40時間を超えて労働した時間が、1か月あたり80時間を超えている
- 疲労の蓄積が認められる
- 本人が面接指導を申し出ている
研究開発業務の従事者と、高度プロフェッショナル制度の適用者は、基準が月100時間超で、申出がなくても面接指導の対象です(同法第66条の8の2・第66条の8の4、同規則第52条の7の2・第52条の7の4)。
この規定は、事業場の人数で区切られていません。従業員50人未満の会社にも適用されます。
会社の役割と面談で扱う内容
会社の役割は、次のとおりです。
- 時間外・休日労働の時間を、毎月1回以上、期日を決めて算定する
- 月80時間を超えた労働者に、その時間の情報を速やかに通知する(規則第52条の2第2項・第3項)
- 申出があったときは、遅滞なく医師による面接指導を行う(規則第52条の3第3項)
- 面接指導の結果を記録し、5年間保存する(規則第52条の6)
- 結果に基づいて医師の意見を聴き、必要があると認めるときは、就業場所の変更や労働時間の短縮などの措置を講じる(法第66条の8第4項・第5項)
産業医は、対象の労働者に申出を勧めることができます(規則第52条の3第4項)。基準に届かない労働者でも、健康への配慮が必要な人には、事業場で定めた基準に沿って必要な措置を講じるよう努めることとされています(法第66条の9、規則第52条の8第2項)。
面談で医師が確認するのは、次の3点です(規則第52条の4)。
- 勤務の状況
- 疲労の蓄積の状況
- そのほかの心身の状況
対象の要件、罰則、通知の伝え方、当日の流れまでは、以下の記事で詳しく解説しています。
>>産業医面談の残業時間基準|月80時間超の義務と罰則、手順を解説
高ストレス者の面接指導|ストレスチェックの結果と本人の申出が基準

高ストレス者の面接指導は、ストレスチェックの結果をもとに実施者が必要と認め、本人が申し出たときに行うものです。ここでは、対象者と基準、申出から就業上の措置までの会社の役割、面談で医師が確認する内容を整理します。
対象者と基準
対象になるのは、次の3つをすべて満たす労働者です(労働安全衛生法第66条の10第3項、規則第52条の15・第52条の16)。
- ストレスチェックの結果、心理的な負担の程度が高い
- 面接指導を受ける必要があると、検査を行った医師等(実施者)が認めた
- 本人が面接指導を申し出ている
申出を理由に、会社が本人へ不利益な取扱いをすることは禁止されています(同項)。実施者は、対象の労働者に申出を勧めることができます(規則第52条の16第3項)。
従業員50人未満の事業場では、ストレスチェックの実施は現在、努力義務です。令和7年の法改正で義務になり、施行日は令和10年4月1日です(厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」令和8年2月)。
会社の役割と面談で扱う内容
会社の役割は、次のとおりです。
- 申出があったときは、遅滞なく面接指導を行う。実施マニュアルは、申出からおおむね1か月以内に実施するとしています(規則第52条の16第2項)
- 面接指導の結果を記録し、5年間保存する(規則第52条の18)
- 面接指導のあと、遅滞なく医師の意見を聴く。実施マニュアルは、遅くとも1か月以内としています(規則第52条の19)
- 医師の意見を踏まえ、必要があると認めるときは就業上の措置を講じる(法第66条の10第6項)
面談で医師が確認するのは、勤務の状況、心理的な負担の状況、そのほかの心身の状況です(規則第52条の17)。実施マニュアルによると、面接指導は精神疾患の診断や治療を行うものではありません。
高ストレス者の面接指導から就業上の措置までの流れと、本人が面談を受けないときの対応については、以下の記事で解説しています。
>>ストレスチェックで高ストレス者が出たら?面接指導から就業上の措置まで
>>従業員がストレスチェックの面談を受けないのはなぜ?人事の対応と法的リスクを解説
健康診断後の医師の意見聴取|異常の所見があった人が対象
健康診断で異常の所見があった労働者については、会社が医師の意見を聴くことが求められています。ここでは、意見聴取の対象者と期限を確認したうえで、「意見聴取」と本人との「面談」が同じではない点を整理します。
対象者と期限
対象になるのは、健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者です。会社は、健康を保持するために必要な措置について、医師または歯科医師の意見を聴かなければなりません(労働安全衛生法第66条の4)。
- 期限:健康診断が行われた日から3か月以内(規則第51条の2第1項)
- 記録:聴いた意見を健康診断個人票に記載する(同項)
- 会社の協力:医師から業務に関する情報を求められたら、速やかに提供する(同条第3項)
意見を聴く相手は「医師又は歯科医師」で、産業医に限られません。厚生労働省の健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針は、産業医がいる事業場では産業医から聴くのが適当としています。
産業医の選任義務がない事業場では、必要な医学の知識をもつ医師等から聴くのが適当で、地域産業保健センターの活用を図ることも示しています。
「意見聴取」と「面談」は同じではない
法律が会社に求めているのは、医師の意見を聴くことです。本人と医師が面談することまでは、条文に書かれていません。
指針は、健診の結果だけでは労働者の状態を判断する情報が足りない場合に、医師と労働者が面接する機会を設けることが適当だと示しています。聴く意見は、就業区分(通常勤務・就業制限・要休業)とその内容が基本です。
意見を聴いたあと、必要があると認めて措置を講じるのは会社です(労働安全衛生法第66条の5第1項)。手順の全体と、意見書の位置づけについては、以下の記事で解説しています。
>>健康診断の事後措置とは?担当者がすべき手順と法的義務を解説
>>産業医の意見書とは?効力や診断書との違い、対応フローまで解説
休職者の復職に関する面談|法令の基準はなく、国の手引きが目安

休職者の復職に関する面談には、法令で決まった数字の基準がなく、厚生労働省などの手引きが流れを示しています。ここでは、手引きが示す産業医等の関わり方と、最終的な復職の決定を会社が行うことを整理します。
手引きが示す産業医等の関わり方
復職の可否を決めるための面談について、数字の基準はありません。厚生労働省と労働者健康安全機構の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が、流れを示しています。手引きは法令ではなく、事業者が行う職場復帰支援の内容を示したものです。
手引きが産業医等の関わりとして示しているのは、次のとおりです。
- 主治医の職場復帰可能の診断書を受け、産業医等が、職場で求められる業務の内容と照らして精査し、意見を述べる
- 診断書だけで足りないときは、産業医等が本人の同意を得て、主治医から情報や意見を集める
- 治療状況や病状の回復、業務遂行能力などの労働者の状態と、職場の受け入れ準備を評価し、復職の可否を判断する
- 産業医等が選任されている事業場では、産業医等が「職場復帰に関する意見書」等をまとめる
復職前の面談などの話し合いの結果は、「職場復帰支援に関する面談記録票」等で記録することが望ましいとされています。
判断するのは会社
最終的な復職の決定は、事業者が行います。手引きは、「職場復帰に関する意見書」等をもとに関係者間で内容を確認しながら手続きを進め、事業者が最終的な決定を行い、本人に通知する流れを示しています。
産業医が選任されていない50人未満の事業場については、手引きが次の進め方を示しています。人事労務管理スタッフや管理監督者、衛生推進者または安全衛生推進者が、主治医や地域産業保健センターなどの事業場外の資源を活用しながら判断します。
復職面談の準備、判定の項目とシート、産業医が復職を認めないときの進め方については、以下の記事で解説しています。
>>産業医の復職面談ガイド|再休職を防ぐ人事の対応と判断基準
>>復職判定の進め方|会社が確認する項目と判定シートの作り方
>>産業医が復職を認めないとき|会社がやる5ステップと本人への伝え方
従業員が任意で受ける健康相談|相談できることと会社が整える体制
健康相談は、従業員が自分の意思で医師に相談する場面で、会社には相談を受ける体制を整える努力義務があります。ここでは、健康相談の位置づけ、相談できること、会社が整えることの3点を整理します。
健康相談の位置づけ
健康相談は、従業員が自分の意思で医師に相談する場面です。会社には、相談を受ける体制を整える努力義務があります。
- 産業医の職務に、健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置が含まれる(規則第14条第1項第7号)
- 会社は、産業医等が労働者からの健康相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備などを講じるよう努める(努力義務。法第13条の3)
従業員に相談を義務づける規定ではありません。
相談できること
相談できる内容の範囲を限定する規定は、確認できていません。参考になるのは、産業医の職務として規則に列挙されている分野です(規則第14条第1項)。
- 健康診断の実施と、その結果に基づく措置
- 面接指導などの実施と、その結果に基づく措置
- ストレスチェックと、その面接指導
- 作業環境の維持管理、作業の管理
- 健康教育、健康相談
- 労働者の健康障害の原因の調査と再発防止
50人未満の事業場の従業員は、地域産業保健センターで、健診結果に基づく健康管理、作業関連疾患の予防方法、メンタルヘルス、日常生活での健康保持増進の方法などの相談ができます(厚生労働省「こころの耳」地域産業保健センター(地さんぽ))。
会社が整えること
産業医を選任している会社は、次の3点を労働者に周知します(法第101条第2項、規則第98条の2第2項)。
- 産業医の業務の具体的な内容
- 産業医に対する健康相談の申出の方法
- 産業医による労働者の心身の状態に関する情報の取扱いの方法
50人未満で、医師や保健師に健康管理を行わせている会社は、この周知が努力義務です(法第101条第3項)。
産業医の健康相談を従業員が使いやすくする工夫と、カウンセリングとの関係については、以下の記事で解説しています。
>>産業医の健康相談が形骸化?従業員が利用しない原因と4つの活性化策
>>産業医カウンセリングを組織改善へ|選び方の基準から医療連携まで解説
面談の内容を記録するときの書き方については、以下の記事を参照してください。
>>【記載例付】産業医面談記録の書き方|フォーマットと書いてはいけないこと
産業医がいない50人未満の会社は、誰に面談を頼むか
従業員50人未満の会社には産業医の選任義務がありませんが、面談が必要になる場面はあります。ここでは、地域産業保健センターなどの公的窓口を使う方法と、産業医の選任や外部の医師への委託を考えるときの考え方を整理します。
公的窓口(地域産業保健センター)を使う
労働安全衛生法第13条は、政令で定める規模の事業場に産業医の選任を求めています。その規模は、常時50人以上の労働者を使用する事業場です(同法施行令第5条)。50人未満の事業場には、選任義務がありません。
ただし、50人未満の事業場も、医師または保健師に労働者の健康管理等の全部または一部を行わせるよう努めます(努力義務。法第13条の2、規則第15条の2)。上で見た5つの場面のうち、長時間労働者の面接指導と健康診断後の意見聴取は、事業場の人数にかかわらず会社に求められます。
頼み先の1つが、地域産業保健センター(地さんぽ)です。労働者数50人未満の事業場の事業者と労働者を対象に、次のサービスを無料で提供しています。
- 長時間労働者への面接指導の相談
- 健診結果などに基づく健康相談
- 医師等が事業場を訪ねて行う、産業保健の指導・助言
利用には、事前の申込みが必要です。50人未満の事業場の医師による面接指導は、地さんぽに依頼して無料で受けられます(小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル)。
産業医が選任されていない事業場の面接指導は、地さんぽの登録医、健康診断機関の医師などに依頼する例が示されています(厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導実施マニュアル」)。
50人未満の選任義務の有無と会社がやることの全体、選任義務そのもの、50人以上の義務の全体像については、以下の記事で解説しています。
>>産業医は50人未満でも必要?選任義務の有無と、会社がやるべきことを解説
>>産業医の選任義務とは?50名以上の罰則・費用・探し方を解説
>>従業員50人以上の義務とは?産業医選任からストレスチェックまで解説
産業医の選任や委託を考えるとき
公的窓口で足りるかどうかは、面談が必要になる頻度や場面によって変わります。復職の判断のように会社の状況を知る医師の関与が望ましい場面や、従業員が50人に近づいている場合は、産業医の選任や外部の医師への委託を検討します。必要なときだけ依頼する形については、以下の記事で整理しています。
>>産業医のスポット契約とは?頼める場面と頼めない場面、50人未満の考え方
Medpartnerは、医師コミュニティを基盤としているため、全国の事業所へ産業医をアサインできます。精神科・心療内科の医師の派遣にも対応し、ストレスチェックでは医師による面接指導の手配まで支援しています。産業医の委託の内容は、産業医の委託サービスのページで確認できます。

まとめ
産業医面談の基準は、場面ごとに違います。
- 長時間労働者:週40時間を超えた時間が月80時間超、疲労の蓄積、本人の申出があれば、会社に面接指導の義務がある
- 高ストレス者:実施者が必要と認め、本人が申し出れば、会社に面接指導の義務がある
- 健康診断後:異常の所見があれば、3か月以内に医師の意見を聴く義務がある。本人との面談は必須ではない
- 復職:数字の基準はなく、国の手引きが判断の流れを示している。最終決定は会社が行う
- 健康相談:相談は任意。会社は体制を整える努力義務がある
50人未満の会社は、地域産業保健センターの利用から始められます。まず、自社で起こりやすい場面を1つ選び、誰に頼むかを決めておくことが最初の一歩です。


