従業員50人未満の会社に、産業医の選任義務はありません。ただし、健康診断や長時間労働者への面接指導など、規模にかかわらず会社が行うことは法律で決まっています。
この記事では、50人未満の事業場の経営者・人事・総務担当者に向けて、選任義務の根拠、義務がなくてもやること、使える公的窓口、産業医を任意で置く場合の考え方を整理します。
・産業医の選任義務があるのは常時50人以上。50人未満は対象外
・50人未満でも必要な、健康診断・医師の意見聴取・面接指導
・10人以上の事業場で必要な衛生推進者・安全衛生推進者の選任
・50人未満が使える公的窓口(地域産業保健センター)
・産業医を任意で置く・外部に任せる場合の考え方
【結論】従業員50人未満の事業場に産業医の選任義務はない

産業医の選任義務があるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。49人までの事業場に、選任義務はありません。「産業医 50人以下」と調べる方もいますが、法令上の線引きは「50人以上」か「50人未満」かです。
根拠は労働安全衛生法施行令。対象は「常時50人以上」なので、50人ちょうどは対象、49人までは対象外
根拠は、労働安全衛生法第13条第1項と、同法施行令第5条です。施行令第5条は、産業医を選任すべき事業場を「常時五十人以上の労働者を使用する事業場」と定めています(労働安全衛生法施行令 第5条(e-Gov法令検索))。厚生労働省の安全衛生に関するQ&A「産業医について教えて下さい」も、同じ内容を説明しています。
線引きを整理すると、次のとおりです。
- 50人以上(50人ちょうどを含む):選任義務あり
- 49人以下:選任義務なし
選任義務はなくても、医師などに健康管理を任せる努力義務はある
産業医を選任する義務のない事業場は、労働安全衛生法第13条の2により、医学に関する知識を有する医師などに、労働者の健康管理の全部または一部を行わせるよう努めなければなりません(労働安全衛生法(e-Gov法令検索))。努力義務なので、方法は会社が選べます。
産業医の選任は、その方法の1つです。50人未満の会社が使える公的な窓口もあります。詳しくは後半で解説します。
注意点:数える単位は「会社」ではなく「事業場」
数える単位は、会社全体ではなく「事業場」です。労働安全衛生法第13条が、「事業場ごとに」産業医を選任すると定めているためです。
どの範囲を1つの事業場として数えるか、パートやアルバイトを人数に含めるかで迷う場合は、所轄の労働基準監督署に確認してください。
50人以上になって初めて課される主な義務
次の3つは、いずれも常時50人以上の事業場が対象です。50人未満の会社には課されません。
- 衛生管理者の選任(施行令第4条)
- 衛生委員会の設置(施行令第9条)
- 定期健康診断の結果の、労働基準監督署への報告(労働安全衛生規則第52条)
50人以上の義務の全体像と、健診結果の報告については、以下の記事で解説しています。
>>従業員50人以上の義務とは?産業医選任からストレスチェックまで解説
>>健康診断結果報告書は労基署へ提出義務あり?書き方から電子申請まで解説
産業医の選任義務がなくても企業がやるべき5つのこと
選任義務がなくても、次の5つは必要です。1〜3は事業場の規模にかかわらず対象です。4は常時10人以上50人未満の事業場、5は衛生委員会などを設けていない事業場が対象です。
1. 従業員への健康診断の実施と結果の記録・保存
労働安全衛生法第66条により、事業者は労働者に対して医師による健康診断を行います。
- 雇入れ時の健康診断:労働者を雇い入れるときに実施します(労働安全衛生規則第43条)。
- 定期健康診断:1年以内ごとに1回、実施します(同規則第44条)。
- 結果の記録:健康診断個人票を作成し、5年間保存します(同規則第51条)。
健康診断を行わなかった場合は、労働安全衛生法第120条により、50万円以下の罰金の対象となる定めがあります(労働安全衛生法(e-Gov法令検索))。パートやアルバイトが対象になる条件については、以下の記事で解説しています。
>>パート・アルバイトの健康診断は義務?対象条件と費用、実施の流れを解説
2. 健診結果に基づく医師からの意見聴取
健康診断で異常の所見があった労働者については、健康を保持するために必要な措置を、医師または歯科医師に聴きます(労働安全衛生法第66条の4)。
- 期限:健康診断を行った日から3か月以内(労働安全衛生規則第51条の2)
- 記録:聴いた意見を、健康診断個人票に記載する(同条)
産業医がいない会社は、次の章で紹介する地域産業保健センターに依頼できます。聴いた意見を書面で受け取る場合は、以下の記事が参考になります。
>>産業医の意見書とは?効力や診断書との違い、対応フローまで解説
書式の有無は産業医の意見書フォーマットで解説しています。健診後の対応の全体像については、以下の記事を参照してください。
>>健康診断の事後措置とは?担当者がすべき手順と法的義務を解説
3. 長時間労働者への医師による面接指導
対象は、休憩時間を除き1週間あたり40時間を超えた労働時間が、1か月で80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者です(労働安全衛生規則第52条の2)。
労働者から申し出があったとき、会社は遅滞なく医師による面接指導を行います(同規則第52条の3)。面接指導の結果に基づいて医師の意見を聴き、必要があると認めるときは、就業場所の変更や労働時間の短縮などの措置を講じます(労働安全衛生法第66条の8)。
労働者数50人未満の事業場にも適用されています(労働者健康安全機構「地域窓口(地域産業保健センター)」)。
4. 衛生推進者・安全衛生推進者の選任(常時10人以上の場合)
常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場では、衛生推進者または安全衛生推進者を選任します(労働安全衛生法第12条の2、労働安全衛生規則第12条の2)。どちらを選ぶかは業種で決まります。
- 安全衛生推進者:建設業、製造業など、施行令第2条第1号・第2号に掲げる業種
- 衛生推進者:上記以外の業種
選任は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に行います。講習の修了者など、業務に必要な能力があると認められる者から選び、原則としてその事業場に専属の者とします(労働安全衛生規則第12条の3)。選任したら、氏名を作業場の見やすい場所に掲示するなどして、労働者に周知します(同規則第12条の4)。
10人未満の事業場は、この選任の対象外です。
5. 安全衛生に関する従業員の意見を聴く機会の設置
衛生委員会は、常時50人以上の事業場に設置義務があります(施行令第9条)。50人未満の会社に設置義務はありませんが、代わりに、安全または衛生に関する事項について、関係する労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければなりません(労働安全衛生規則第23条の2)。
方法は、会社の規模や職場の実情に合わせて決めます。意見を出せる窓口や、定期的な面談などが考えられます。
50人未満の企業が使える公的サービス(地域産業保健センター)
産業医と契約していない会社でも、地域産業保健センター(通称「地さんぽ」)を使えます。労働者健康安全機構が運営し、おおむね労働基準監督署の管轄区域ごとに設置されています(こころの耳「地域産業保健センター(地さんぽ)」)。
対象は、労働者数50人未満の事業場の事業者と労働者です。サービスは原則として無料で、利用には事前の申し込みが必要です。
地域産業保健センターで受けられるサービス
労働者健康安全機構の案内では、次のサービスが挙がっています。
- 長時間労働者への医師による面接指導の相談
- 健康相談窓口:医師や保健師が、健診結果に基づく健康管理、メンタルヘルス、日常生活での健康保持などの相談に応じる
- 個別訪問による産業保健指導:医師などが事業場を訪問し、健診結果に基づく指導・助言や、医師による作業場の巡視を行う
- 産業保健情報の提供:地域の産業保健関係機関のリストを案内する
労働局のリーフレットには、健康診断で異常の所見があった労働者について、医師から意見を聴くことも挙がっています(小規模事業場の事業者・労働者の皆さまへ(栃木労働局リーフレット))。
利用するときの確認点と、産業保健総合支援センター
回数の上限や申し込みの方法といった利用条件は、最寄りの窓口の案内で確認してください。各センターの連絡先は、都道府県別にこころの耳に掲載されています。福岡県の窓口については、以下の記事で紹介しています。
>>福岡の50人未満事業場|2028年ストレスチェック義務化に向けた準備と無料相談窓口
都道府県ごとに設置された産業保健総合支援センター(さんぽセンター)も、メンタルヘルス対策の相談対応や、事業場への訪問による制度導入支援などを無料で提供しています(厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」)。
産業医を任意で置く場合の3つの選択肢
50人未満の会社が産業医を置くかどうかは、法令上、会社の判断です。選択肢は大きく3つに分けられます。
| 選択肢 | 向いている場面 | 確認しておきたい点 |
|---|---|---|
| 公的窓口(地さんぽ)を必要なときに使う | 健診後の意見聴取や面接指導など、必要な場面が限られている | 事前の申し込みが必要。利用条件は窓口で確認する |
| 医師や専門家に、必要なときだけ個別に相談する | 特定の課題だけを相談したい | 相談先を自社で探す手間がかかる。事業場の事情を継続的に把握してもらいにくい |
| 産業医と継続的に契約する | 職場の状況を踏まえた助言や、日常的な相談体制がほしい | 契約に費用がかかる。訪問頻度など契約内容を確認する |
産業医の探し方や選び方については、以下の記事で解説しています。
>>中小企業の産業医選び方|選任義務から健康経営の進め方まで
選任から日々の運用まで外部に任せたい場合は、産業医サービスの外部委託という方法もあります。

産業医を置く・外部に任せるか検討するときに整理しておきたい3つのこと
検討の前に、社内で次の3点を整理しておくと、ミスマッチを防げます。
1つ目は任せたいことを先に決めること、2つ目は訪問の有無や頻度、オンライン対応など契約内容の確認点、3つ目は公的窓口(地さんぽ)でまかなえる範囲の確認です。何を公的窓口に任せ、何を外部に任せるかを決めておくと、費用と手間の見通しも立てやすくなります。
1. 任せたいことを先に決める
まず、何を任せたいのかを具体的にします。任せたい内容の例は、次のとおりです。
- 健康診断結果に基づく医師の意見聴取
- 長時間労働者や高ストレス者への面接指導
- メンタルヘルス不調者への対応
- 職場巡視による作業環境のチェック
- 従業員向けの健康・衛生の講話
- 従業員からの日常的な健康相談
2. 訪問の有無・頻度・オンライン対応など、契約内容の確認点
任せたい内容が決まったら、契約条件を確認します。
- 訪問の有無と、契約で決める訪問の回数
- 面談や会議にオンラインで対応できるか
- 訪問時以外に、電話・メール・チャットなどで相談できるか
- 医師の専門性(メンタルヘルスを重視するなら、精神科・心療内科の医師を選べるか)
3. 公的窓口でまかなえる範囲を先に確認する
地さんぽで対応できる範囲を確認したうえで、足りない部分を、専門家への個別相談や産業医との契約で補う考え方があります。何を公的窓口に任せ、何を外部に任せるかを決めておくと、費用と手間の見通しを立てやすくなります。
将来に備える2つのポイント:ストレスチェックの義務化と50人到達前の準備

現在は産業医の選任義務がなくても、法改正と従業員数の増加に備えて確認しておくことがあります。
1つは、2028年4月から50人未満の事業場にも義務化されるストレスチェックです。もう1つは、従業員が50人に近づいている会社が、産業医の選任に向けて進めておきたい準備です。
ポイント1:2028年から50人未満にも義務化されるストレスチェック
ストレスチェックは、現在は50人未満の事業場では努力義務です。2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、令和10年(2028年)4月1日から、50人未満の事業場にも義務化されます(厚生労働省 山梨労働局「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」)。詳しくは、以下の記事で解説しています。
>>ストレスチェックの義務化|50人未満は2028年4月から。50人以上の対象者・罰則も解説
ポイント2:従業員が50人に近づいている企業の準備
産業医は、選任すべき事由が発生した日(常時使用する労働者が50人以上になったとき)から14日以内に選任します。選任したら、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告します(労働安全衛生規則第13条、労働安全衛生規則(e-Gov法令検索))。
50人に近づいている会社は、次の準備をしておくと慌てずに済みます。
- 産業医の探し方(紹介会社、地域の医師会など)を調べる
- 任せたい業務を、社内で整理する
- 見積もりを取り、予算を確保する
選任の手順と届出については、以下の記事で解説しています。
>>産業医の選任義務とは?50名以上の罰則・費用・探し方を解説
>>産業医選任報告書の書き方|様式から提出までの手順を4ステップで解説
Medpartnerは、医師コミュニティを基盤に、全国の事業所へ産業医をアサインできます。代表が現役の産業医で、現場への訪問を前提に運用します。
まとめ
従業員50人未満の事業場に、産業医の選任義務はありません。ただし、健康診断、健診後の医師の意見聴取、長時間労働者への面接指導は、規模にかかわらず会社が行います。常時10人以上の事業場では、衛生推進者または安全衛生推進者の選任も必要です。意見聴取や面接指導は、地域産業保健センターを原則無料で使えます。
次の3つから始めてください。
- 自社の事業場の人数と業種を確認する
- 健康診断と、健診後の医師の意見聴取の実施状況を点検する
- 最寄りの地域産業保健センターの連絡先を控える
産業医を置くか迷う場合は、任せたい業務を整理してから検討します。


