この記事では、ストレスチェックの面談を従業員が拒否した場合の、企業の法的リスクと具体的な対応方法を解説します。「高ストレス判定の従業員が面談を拒否…放置すれば法的リスクがあるのでは」とお悩みの人事担当者様へ、従業員の心理背景、企業の安全配慮義務、具体的な対応ステップ、予防策までを網羅的にお伝えします。
産業保健の専門家として多くの企業を支援してきた知見に基づき解説するので、ぜひご一読ください。貴社の状況に合わせた産業医選任やストレスチェック実施支援も一気通貫でサポートしています。

ストレスチェックの面談を従業員が拒否する3つの心理的背景

従業員が産業医面談を拒否する背景には、本人なりの理由やいくつかの心理的な要因が存在します。一方的に面談を促すのではなく、まずは相手の気持ちを理解しようとすることが、解決への第一歩といえます。ここでは、代表的な3つの心理的背景について解説します。
「不調を認めたくない」「評価への影響」という不安
従業員が面談を拒否する一因として、自身の不調を認めたくない気持ちや、人事評価への悪影響を懸念する不安が挙げられます。メンタルヘルスの不調を「個人の弱さ」と捉え、相談すること自体に抵抗を感じる方は少なくありません。
また、「面談の内容が会社に伝わり、昇進や異動で不利な扱いを受けるのではないか」という心配も根強いと考えられています。産業医には守秘義務があり、本人の同意なしに面談内容が会社へ共有されることはないと説明しても、その不安を完全には拭いきれない可能性があります。
産業医や会社そのものへの不信感
従業員が産業医や会社自体に不信感を抱いている場合も、面談を拒否する傾向が見られます。特に、普段から産業医との接点が少ないと、「産業医は会社の味方であり、自分の意見を聞いてくれない」という先入観を持ってしまうことがあります。
過去の労務トラブルや、日頃のコミュニケーション不足が原因で、会社と従業員の間に信頼関係が築けていないケースも同様です。誰が、どのような立場で話を聞いてくれるのかが不透明な状況では、従業員が安心して心を開くことは難しいといえます。
多忙による時間確保の難しさ
本人の心理的な抵抗だけでなく、純粋に業務が多忙で面談の時間を確保できないという現実的な理由も考えられます。責任感の強い従業員ほど、自分の業務を中断することや、同僚に仕事の負担をかけることに罪悪感を抱きがちです。
また、面談が通常の業務時間外に設定されている場合、プライベートな時間を削ってまで参加することに抵抗を感じることもあるでしょう。心身が疲弊している状況では、面談を受けること自体がさらなる負担になってしまう可能性も否定できません。
「面談を受けない」は違法?問われる企業の安全配慮義務と法的リスク

従業員が産業医面談を受けないこと自体は、違法ではありません。労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度では、高ストレス者と判定された従業員に面談を受ける義務は課されていないためです ※。しかし、企業側には労働契約法第5条に基づき、従業員の生命や身体などの安全を確保しつつ労働できるよう配慮する「安全配慮義務」があります ※。
面談の申し出があった従業員に対して面談を実施しない、あるいは面談を拒否した従業員をそのまま放置した結果、その従業員の心身の不調が悪化してしまった場合、企業が安全配慮義務違反に問われるリスクがあります。
具体的には、従業員やその家族から損害賠償を請求される可能性も考えられます。したがって、企業としては面談を強制できないものの、従業員の健康を守るために適切な働きかけを続け、その努力を記録として残しておくことが重要です。
自社の対応が安全配慮義務を十分に満たしているかご不安な場合や、具体的なリスク管理について専門家の助言が必要な場合は、一度私たちにご相談ください。法令遵守と従業員の健康を両立させる体制づくりをサポートします。

【3ステップ】面談拒否された人事担当者のための具体的な対応フロー

従業員から面談を拒否された場合でも、企業として段階的に適切な対応をとることで、リスクを低減し、従業員の健康確保に繋げられます。ここでは、人事担当者がすぐに実践できる具体的な3つのステップを解説します。
Step1:本人との個別面談で意思と状況を丁寧にヒアリングする
まずは人事担当者が本人と1対1で面談し、面談を希望しない理由や現在の状況を丁寧に聞き取ることが最初のステップです。高圧的な態度で面談を迫るのではなく、あくまで「あなたのことを心配している」という姿勢で、安心して話せる雰囲気をつくることが大切です。
ヒアリングの際は、下記のような点を確認するとよいでしょう。
- 面談を受けたくない具体的な理由
- 現在の業務負荷や労働時間
- 睡眠や食欲など、心身の自覚症状の有無
- 業務上の悩みや人間関係について
このとき、話した内容が本人の許可なく他者に伝わることはない、という守秘義務を改めて説明することが、信頼関係を築く上で重要になります。
Step2:産業医へ状況を報告・相談し、客観的な助言を得る
次に、本人との面談で得られた情報(本人の同意を得た範囲で)を産業医に報告し、専門家としての客観的な助言を求めます。人事担当者だけで問題を抱え込まず、産業医という専門家を頼ることで、より的確な対応策を見出せます。
産業医には下表のような内容を伝え、今後の対応について相談しましょう。
| 報告・相談事項 | 具体的な内容例 |
|---|---|
| 本人からのヒアリング結果 | ・面談拒否の理由 ・本人が話した心身の状況や業務の悩み |
| 客観的な勤怠状況 | ・直近の残業時間 ・遅刻、早退、欠勤の頻度 |
| 今後の対応方針の相談 | ・本人への別のアプローチ方法 ・職場環境で配慮できることの有無 |
産業医からの助言をもとに、会社としてどのような働きかけが可能か、次の具体的なアクションを検討します。
Step3:対応記録を作成し、安全配慮義務を履行した証跡を残す
最後に、これまでの対応プロセスを時系列で詳細に記録し、安全配慮義務を履行するために努力した証跡として保管します。この記録は、万が一の際に企業としての正当な対応を客観的に証明するための重要な資料となります。
記録には、下記に整理する項目を含めるようにしましょう。
- 従業員への面談勧奨の日時と担当者
- 本人との面談日時、場所、担当者、面談内容
- 産業医への相談日時、内容、受けた助言
- 助言に基づき実施した対応策とその結果
- その後の本人の状況に関する定期的なフォローアップ記録
これらの記録を残すことは、単なる事務作業ではありません。従業員一人ひとりの健康を守り、会社のリスクを管理するための重要な業務といえます。
そのまま使える!従業員の不安を和らげる声かけ・面談勧奨フレーズ例
面談を勧める際は、従業員の不安な気持ちに寄り添い、安心感を与える言葉を選ぶことが大切です。命令口調や詰問口調は避け、あくまで本人の健康を気遣う姿勢を示す必要があります。
ここでは、状況別に使える声かけや面談勧奨のフレーズ例を紹介します。自社の状況や従業員との関係性に合わせてアレンジしてご活用ください。
評価への不安を訴える従業員へ
評価への不安を訴える従業員へ「面談内容は、ご本人の同意なく会社に共有されることはありませんのでご安心ください。あくまでご自身の健康状態を客観的に見つめ直すための機会と考えてみませんか。」多忙を理由にする従業員へ「お忙しいところ申し訳ありません。業務の調整はこちらでサポートしますので、ご心配なく。まずは30分だけでも、産業医の先生とお話しする時間を確保できないでしょうか。」
産業医への不信感がある従業員へ「〇〇先生はメンタルヘルスのご専門で、多くの方の相談に乗ってこられた経験豊富な方です。会社とは独立した立場で、あなたの味方として話を聞いてくれますよ。」
全般的な声かけとして「最近少しお疲れのように見えたので、心配しています。すぐに何か解決しなくても、専門家の方に話を聞いてもらうだけで、少し気持ちが楽になるかもしれませんよ。」
【独自ノウハウ】面談拒否を未然に防ぐ!産業医と連携した予防体制構築のコツ

面談拒否という事態が発生してから対処するのではなく、日頃から産業医と密に連携し、従業員がいつでも安心して相談できる予防体制を構築することが本質的な解決策です。問題が起きにくい職場環境をつくることで、人事担当者の負担も軽減されます。
効果的な予防体制を構築したいけれど、何から手をつければ良いかわからない、日々の業務でそこまで手が回らないという担当者の方も多いのではないでしょうか。ここでは、産業医と連携して行う予防体制構築のコツについて解説します。
産業医の専門性や人柄を事前に社内へ周知し相談のハードルを下げる
産業医がどのような専門性を持ち、どんな人柄なのかを事前に社内へ周知することで、相談への心理的ハードルを大きく下げられます。産業医を「健康を守る身近なパートナー」として従業員に認知してもらうことが重要です。
社内報やイントラネット、掲示板などを活用し、下記のような情報を定期的に発信してみましょう。
- 専門分野や経歴
- 趣味や休日の過ごし方などのパーソナルな情報
- 顔写真や従業員へのメッセージ
また、産業医による健康講話を定期的に開催し、従業員が直接顔を合わせる機会を作るのも有効な方法と考えられています。
ストレスチェック結果通知時に相談窓口の選択肢を複数提示する
ストレスチェックの結果を個人に通知する際、産業医面談だけを案内するのではなく、複数の相談窓口を提示することで、従業員が自分に合った方法を選べるようになります。「面談一択」という圧迫感が和らぎ、相談への第一歩を踏み出しやすくなる効果が期待できます。
提示する相談窓口の例は、次のとおりです。
- 産業医との対面またはオンライン面談
- 社内に保健師がいる場合は、保健師との相談
- 外部EAP(従業員支援プログラム)機関のカウンセリング
- 電話やチャットで匿名相談できる窓口
従業員が主体的に相談先を選べる環境を整えることが、セルフケア意識の向上にも繋がります。
衛生委員会を活用し「いつでも相談できる雰囲気」を醸成する
毎月開催される衛生委員会を形骸化させず、従業員の健康課題について活発に議論する場として機能させることで、社内全体に「健康についていつでも相談できる雰囲気」を醸成できます。
例えば、ストレスチェックの集団分析結果(個人が特定されないよう加工したもの)を衛生委員会で共有し、職場環境の改善点を話し合うテーマとすることが有効です。産業医にも委員会へ参加してもらい、専門的見地から助言をもらうことで、より実効性の高い議論ができます。
従業員代表の委員から現場の声を吸い上げ、会社として改善に取り組む姿勢を示すことが、風通しの良い組織風土の醸成に繋がるでしょう。
産業保健の専門家と連携し、従業員が安心して働ける職場づくりを
従業員による産業医面談の拒否は、単なる個人の問題ではなく、自社の産業保健体制や職場環境を見直すきっかけと捉えることができます。大切なのは、専門家と連携し、誰もが心身ともに健康で、安心して働ける職場づくりを着実に進めていくことです。
面談拒否への対応から、相談しやすい風土の醸成、そして予防体制の構築まで、産業医や外部の専門機関は企業の強力なパートナーとなります。専門家の知見を積極的に活用し、従業員のエンゲージメントと生産性の向上を目指しましょう。
法令遵守やリスク管理の観点から、自社の産業保健体制に漏れがないか確認したいという方は、お気軽にご相談ください。
>>産業医の選任・交代について無料で相談する
また、産業医の選任から日々の運用、予防体制の構築まで、専門家に任せて担当者の負担を軽減したいとお考えの企業様も、ぜひ一度お問い合わせください。
まとめ
従業員がストレスチェックの面談を拒否した場合、企業は面談を強制できませんが、安全配慮義務を果たすための適切な働きかけと記録が不可欠です。
従業員の心理に配慮した丁寧なヒアリングと産業医との連携、そして日頃から相談しやすい予防体制を構築することが、従業員の健康と会社のリスク管理の両立に繋がります。自社の対応が法令を遵守し、安全配慮義務を満たせているかご不安な場合や、専門家と連携して効率的に体制を構築したい場合は、ぜひ一度私たちにご相談ください。

