雇い入れ時の健康診断は、雇い入れの「直前又は直後」に実施するものとされています。入社前に受けてもらう場合も、雇い入れの直前にあたる時期であれば、労働局の資料が示す実施時期の範囲です。ただし、採用選考の段階で健診を求めることには、別の注意が必要です。
対象は、従業員10〜49人ほどの会社で、新しく採用する人の健診を担当する人事・総務の方です。法令の内容は、e-Gov法令検索、厚生労働省、労働局の資料で確認できた範囲だけを書いています。確認できなかった点は、その旨を書き、労働基準監督署への確認を案内します。
・雇い入れ時の健康診断を、入社の前後どちらで受けさせるか
・採用選考の段階と、内定後・入社前の考え方
・入社前に本人が受けた健診結果で代えられる場合
・入社前後の進め方の3パターン
・費用と受診時間の扱い
・結果の保管・通知と、健康情報の取扱い
雇い入れ時の健康診断は、入社の前後どちらで受けさせるか

結論から言うと、法令上の言葉は「雇い入れるとき」です。労働局の資料では、実施時期は雇入れの「直前又は直後」とされています。どのくらい前までを「直前」とするかは、確認できた資料に数字がありません。
根拠は労働安全衛生規則第43条の「雇い入れるとき」
根拠は、労働安全衛生規則 第43条です。事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、その労働者に医師による健康診断を行わなければなりません。
- 対象は「常時使用する労働者」です。パート・アルバイトが対象になる条件については、以下の記事で解説しています
>>パート・アルバイトの健康診断は義務?対象条件と費用、実施の流れを解説 - 健診を行わなかった場合、法第66条第1項の違反として、50万円以下の罰金が定められています(労働安全衛生法 第120条第1号)
- 雇い入れたときの安全衛生教育は、健診とは別の義務です(労働安全衛生法 第59条)。教育の中身については、以下の記事で解説しています
>>安全衛生教育の義務とは?種類一覧と計画の立て方をわかりやすく解説
実施時期は「雇入れの直前又は直後」
実施時期は、次の3つの資料で確認できます。
- 厚生労働省のパンフレット:実施時期を「雇入れの際」と示しています(労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう)
- 石川労働局のFAQ:雇入れる直前又は直後に実施する必要があると書いています(健康診断に関するFAQ)
- 大阪労働局のセミナー資料:雇入れ直前、直後の適切な時期とし、遅くとも配属部署に配置する前に行うとしています(一般健康診断について)
つまり、入社日の前に受けてもらう方法も、入社後に受けてもらう方法も、時期としては範囲に入ります。「直前」が入社日の何日前までかは、資料に書かれていません。迷うときは、所轄の労働基準監督署に確認してください。
健診の項目は11項目
規則第43条が定める項目は、次の11項目です。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力、聴力(1,000ヘルツと4,000ヘルツの音)の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量と赤血球数)
- 肝機能検査(GOT、GPT、ガンマ-GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖と蛋白の有無)
- 心電図検査
定期健康診断にある喀痰検査は、雇い入れ時の項目に含まれません。定期健康診断は、医師が必要でないと認めるときに一部の項目を省略できます(規則第44条第2項)。第43条には、この省略の定めがありません。省略できるのは、次の章で説明するただし書の場合です。
なお、色覚検査は、平成13年10月に雇入時健康診断の項目から廃止されています(大阪労働局「採用選考時の健康診断について」)。
採用選考の段階と、内定後・入社前を分けて考える
雇い入れ時の健康診断は、採用選考のための健診ではありません。厚生労働省は、応募者の適性と能力を判断するうえで合理的かつ客観的に必要な場合を除いて、採用選考時に健診を実施しないよう求めています。
採用選考時の健診は、雇い入れ時の健康診断とは別の話
大阪労働局のページには、次の趣旨が書かれています。雇い入れ時の健康診断は、雇い入れた際の適正配置と、入職後の健康管理に役立てるために実施するものです。採用選考時に実施することを義務づけたものではなく、応募者の採否を決めるために実施するものでもありません(採用選考時の健康診断について)。
選考の段階で健診や健康状態の確認を行うときの注意
厚生労働省の公正採用選考のページで、確認できる内容は次のとおりです。
- 採用選考時の健診には、応募者に既往歴を確認する行為と、健康状態の確認・告知書を提出させる行為も含まれます(よくある質問)
- 必要性を慎重に検討し、応募者の適性と能力を判断するうえで、合理的かつ客観的に必要な場合を除いて、実施しないよう求めています
- 真に必要な場合でも、検査内容と必要性を、あらかじめ十分に説明したうえで実施することが求められます
- 「合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施」は、就職差別につながるおそれがある事項の一つです。健康診断書を提出させることも含まれます(採用選考時に配慮すべき事項)
大阪労働局のページには、採用選考時に血液検査などを一律に実施している事例への注意もあります。あわせて、HIV感染の有無は応募者の能力・適性と一般に無関係であるとして、採用選考を目的としたHIV検査は行わないよう求めています。
内定後・入社前の実施について、確認できたことと確認できなかったこと
確認できたのは、石川労働局と大阪労働局の資料が、実施時期を雇入れの「直前」としていることです。確認できなかったことは、次の2点です。
- 内定後・入社前の健診に、採用選考時の健診の考え方(厚生労働省のQ&A)がどう当てはまるかを、直接書いた文書
- 健診の結果を理由に、内定を取り消せるかどうか
この2点は、今回の確認では一次情報を見つけられませんでした。会社だけで決めず、所轄の労働基準監督署に確認してください。
実務上の工夫として、入社前に受けてもらう場合は、案内文に目的と項目を書いておくと、選考目的と誤解されにくくなります。目的は、入社後の適正配置と健康管理です。
入社前に本人が受けた健診結果で代えられる場合
入社する人が最近受けた健診の結果で、雇い入れ時の健康診断に代えられる場合があります。根拠は、規則第43条のただし書です。
ここでは、受診後3か月以内であることと結果を証明する書面の提出という条件、代えられるのは相当する項目だけである点を整理します。あわせて、本人が会社の指定とは別の医師で健診を受ける場合の根拠も説明します。
条件は「受診後3か月以内」と「結果を証明する書面の提出」
ただし書は、次のように書いています。医師による健康診断を受けた後、3か月を経過しない者を雇い入れる場合に、その者が健診の結果を証明する書面を提出したときは、その健診の項目に相当する項目について、雇い入れ時の健診を行わなくてよい、という内容です。条件を分けると、次の3つです。
- 医師による健康診断を受けていること
- 受けた後、3か月を経過しないうちに雇い入れること
- 本人が、その健診の結果を証明する書面を提出すること
3か月の数え方の細部は、条文だけでは断定できません。受診日と入社日の関係で迷うときは、所轄の労働基準監督署に確認してください。
代えられるのは、相当する項目だけ
条文の言葉は「当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない」です。代えられるのは、項目単位です。
- 提出された書面を、11項目と照らし合わせます
- そろっている項目は、雇い入れ時の健診を省けます
- 足りない項目は、雇い入れ時の健診として行います
前職の定期健診の結果は、項目が足りないことがあります。定期健診では、医師が必要でないと認めるときに、一部の項目を省略できるためです。厚生労働省のパンフレット(2013年3月版)には、貧血、肝機能、血中脂質、血糖、心電図の各検査は、35歳未満と36〜39歳の人について、医師が必要でないと認めるときに省略できると書かれています。
本人が自分で選んだ医師で受ける場合
もう一つ、別の根拠があります。労働者は、事業者が行う健診を受けなければなりません。ただし、事業者が指定した医師の健診を希望しない場合は、ほかの医師の相当する健診を受け、その結果を証明する書面を提出すれば足ります(労働安全衛生法 第66条第5項)。
会社が案内した医療機関で受けたくないという人がいたときは、この定めが根拠になります。
入社前後の進め方を3つのパターンで整理する
ここまでの内容から、進め方は3つのパターンに整理できます。
入社前に会社が手配して受けてもらう方法、入社前に本人が受けた健診の書面を提出してもらう方法、入社後の配属前に受けてもらう方法の3つです。それぞれについて、根拠、会社が確認すること、注意点をまとめます。
パターンA:入社前に、会社が手配して受けてもらう
内定後から入社日までの間に、会社が用意した医療機関で受けてもらう方法です。
- 根拠:労働局の資料が、実施時期を雇入れの直前としています
- 会社が確認すること:受診日が「直前」にあたる時期か、案内文に目的と項目を書いたか、費用を会社が負担する前提か
- 注意:受診の案内は、選考の合否とは切り離して伝えます
パターンB:入社前に本人が受けた健診の書面を提出してもらう
入社する人が、受診後3か月を経過していない健診の書面を持っている場合の方法です。
- 根拠:規則第43条ただし書
- 会社が確認すること:3か月を経過していないか、11項目がそろっているか
- 注意:足りない項目は、雇い入れ時の健診として行います
パターンC:入社後、配属前に受けてもらう
入社日以降に、会社が手配して受けてもらう方法です。
- 根拠:労働局の資料が、実施時期を雇入れの直後とし、遅くとも配属部署に配置する前としています
- 会社が確認すること:入社日から配属日までに、受診日を確保できるか
- 注意:配属の日程が先に決まっている場合は、受診日を先に押さえます
費用と受診時間の扱い
費用と賃金は、扱いが分かれます。費用は事業者が負担すべきもの、賃金は労使で協議して決めるものです。
ここでは、厚生労働省のよくある質問と労働局の資料で確認できた、健診の費用と受診時間の賃金の扱いを整理します。入社前に実施するときの賃金や交通費など、確認できなかった点もあわせて示します。
費用は事業者が負担すべきものとされている
厚生労働省のよくある質問には、労働安全衛生法などで事業者に義務付けられている健診の費用は、事業者に実施が義務付けられている以上、当然に事業者が負担すべきもの、と書かれています(健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?)。
石川労働局のFAQには、雇入時、定期、特定業務従事者の一般健康診断のすべてを、事業者負担で行うよう書かれています。
受診時間の賃金は、労使で協議して決める
同じく厚生労働省のよくある質問に、次の内容があります(健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?)。
- 一般健康診断は、業務遂行との直接の関連で行われるものではないため、受診時間の賃金は、労使間の協議で定めるものです
- 円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい、とされています
入社前に実施するときに、確認できなかったこと
次の3点は、確認した資料に直接の記載がありませんでした。
- 入社前の受診時間の賃金
- 受診場所までの交通費
- 本人が自費で受診済みの健診結果を代用として提出する場合に、その費用を会社が負担するか
会社の取り扱いを、あらかじめ入社案内や就業規則に書いておくと、入社予定者との行き違いを減らせます。判断に迷うときは、所轄の労働基準監督署に確認してください。
結果の保管・通知と、健康情報の取扱い

健診の結果は、保管し、本人に通知し、必要に応じて医師の意見を聴きます。個人の健康情報なので、取り扱う人と範囲も決めておきます。
ここでは、健康診断個人票の作成と5年間の保存、本人への通知、医師の意見聴取を整理し、厚生労働省の指針で確認できる健康情報の取扱いを説明します。結果について相談できる先がないときの考え方にも触れます。
健康診断個人票の作成と5年間の保存、本人への通知
- 健康診断個人票(様式第5号)を作成し、5年間保存します(規則 第51条)
- 健診の結果は、遅滞なく本人に通知します(規則 第51条の4)
- 異常の所見がある人については、医師または歯科医師の意見を聴きます(労働安全衛生法 第66条の4)
- 意見を聴く期限は、健診が行われた日から3か月以内です。労働者が会社の指定した医師以外の医師の健診を受けて、その結果の書面を提出した場合(労働安全衛生法 第66条第5項ただし書)は、提出した日から3か月以内です(規則 第51条の2第1項)
- 雇入時健診を受けた人は、その実施の日から1年間に限り、定期健康診断で、受けた項目に相当する項目を省略できます(規則 第44条第3項)
入社前の健診の書面で代えたときに、意見を聴く期限をどの日から数えるかは、条文の文言だけでは断定できません。労働基準監督署に確認してください。
意見聴取の進め方は、産業医面談の基準で場面別に整理しています。健診後の手順については、以下の記事で解説しています。
>>健康診断の事後措置とは?担当者がすべき手順と法的義務を解説
労働基準監督署への結果報告は、規則第52条で「定期のものに限る」とされ、雇入時の健診は含まれません。定期健診の報告書については、以下の記事で解説しています。
>>健康診断結果報告書は労基署へ提出義務あり?書き方から電子申請まで解説
健康情報の取扱い:厚生労働省の指針で確認できる範囲
厚生労働省の指針「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」では、次のように整理されています(指針の本文)。
- 法令で定められた項目の結果:本人の同意なく事業者が収集できます。ただし、情報を取り扱う人を制限するなど、取扱規程で適切な取り扱いを定めて運用します
- 法令で定められていない項目の結果:あらかじめ本人の同意が必要です。例は、がん検診の結果や、精密検査の結果です
- 本人が自発的に提出した情報:同意を得たものと解されます。会社が医療機関に直接問い合わせる場合は、別に本人の同意が必要です
- 小規模な事業場:体制に応じて、合理的な措置を講じるとされています
労働安全衛生法第104条も、労働者の健康の確保に必要な範囲で、情報を収集し、保管し、使用するよう定めています。なお、入社前の応募者や内定者にこの指針がどう当てはまるかは、今回確認できていません。
結果の相談先がないとき
従業員50人未満の事業場には、産業医の選任義務がありません。ただし、健診の結果に異常の所見があれば、医師の意見を聴く義務は同じです。
公的な相談窓口については、以下の記事で整理しています。
>>産業医は50人未満でも必要?選任義務の有無と、会社がやるべきことを解説
50人以上になったときの義務については、以下の記事で解説しています。
>>産業医の選任義務とは?50名以上の罰則・費用・探し方を解説
外部の医師に任せる方法もあります。産業医の委託は、産業医の委託・選任のサービスで案内しています。Medpartnerは、単発で必要なときだけ依頼するスポット契約にも対応しています。

まとめ
- 雇い入れ時の健康診断は、雇入れの直前又は直後に実施します。入社前も入社後も、時期としては範囲に入ります
- 採用選考時の健診は別の話です。必要性を慎重に検討し、合理的かつ客観的に必要な場合を除いて実施しないよう、厚生労働省が求めています
- 入社前に受けた健診で代えられるのは、受診後3か月を経過していない人が、結果の書面を提出した場合です。代えられるのは相当する項目だけです
- 費用は事業者が負担すべきものです。受診時間の賃金は、労使で協議して決めます
- 個人票は5年間保存します。健康情報は、取り扱う人を決めて管理します
次に取る行動は、3つです。入社予定者ごとに、パターンA〜Cのどれで進めるかを決めます。費用、賃金、交通費の扱いを、入社案内に書きます。確認できなかった点は、所轄の労働基準監督署に確認します。


