産業医から「意見書」が届いたものの、会社としてどこまで従えばよいのか迷っていませんか。産業医がいない会社でも、健康診断や面接指導のあとに、医師の意見を聴く場面があります。
この記事では、産業医の意見書が出る場面、誰が書くのか、法的な効力、受け取った後の対応を、従業員50人未満の会社の担当者にもわかるように整理します。
・意見書が出る場面と、誰が書くのか
・意見書の効力(会社は従わなければならないのか)
・受け取った後の対応4ステップ
・産業医がいない50人未満の会社の相談先
「産業医の意見書」とは?主治医の診断書との役割の違いを解説
意見書と聞くと、主治医の診断書と同じようなものを思い浮かべるかもしれません。実際には、書く人も目的も異なります。まずは意見書の意味と、出てくる場面から確認しましょう。
そもそも産業医の意見書とは?法令では「医師の意見を聴く」と定められている
産業医の意見書とは、従業員の健康状態を踏まえ、安全に働き続けるための措置について、医師が会社に述べる意見を書面にしたものです。
法令には、会社が「医師の意見を聴かなければならない」と定められた場面があります。この記事では、聴いた意見を書面にしたものを「意見書」と呼びます(厚生労働省の面接指導の様式例や職場復帰支援の手引きでも「意見書」という名称が使われています)。
健康診断の場合は、聴いた意見を健康診断個人票に記載することも定められています(労働安全衛生規則第51条の2)。意見書は、会社が就業上の措置を検討するときの、医学的な判断材料になります。
意見書が出る主な場面(健康診断後・長時間労働・ストレスチェック・復職)
意見書が出る主な場面は次の4つです。最初の3つは、会社が医師の意見を聴くことが労働安全衛生法に定められています。復職は、国の手引きで産業医等が意見書を作成する流れが示されています。
- 健康診断のあと:健康診断で異常の所見があった従業員について、会社は健康診断が行われた日から3か月以内に、医師の意見を聴きます(労働安全衛生法第66条の4、労働安全衛生規則第51条の2)。事後措置の全体像は健康診断の事後措置の記事で解説しています。
- 長時間労働者の面接指導のあと:時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる従業員が申し出た場合、会社は医師による面接指導を行い、その結果に基づいて医師の意見を聴きます。
意見聴取は面接指導の後、遅滞なく行います(労働安全衛生法第66条の8、労働安全衛生規則第52条の2・第52条の7)。面談の基準は産業医面談の残業時間基準の記事で解説しています。 - ストレスチェックの面接指導のあと:ストレスチェックで高ストレスとされ、面接指導を申し出た従業員について、会社は面接指導の結果に基づいて医師の意見を聴きます(労働安全衛生法第66条の10第5項)。
国の小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアルでは、遅くとも面接指導から1か月以内に意見を聴くこととされています。対応の流れは高ストレス者への対応の記事で解説しています。 - 休職からの復職のとき:厚生労働省の職場復帰支援の手引きには「職場復帰に関する意見書」の様式例があり、産業医等が作成する流れが示されています。復職面談の進め方は産業医の復職面談ガイドで解説しています。
意見書の書式・フォーマットや記入例は、以下の記事で解説しています。
>>産業医の意見書フォーマット|厚生労働省の様式の有無と場面別の記入例
意見書は誰が書く?産業医・面接指導を行った医師・地域産業保健センター
意見を述べる医師は、会社の規模や場面によって変わります。
- 産業医を選任している会社(常時50人以上の事業場):産業医は、労働者ごとの健康状態や作業内容、作業環境を詳しく把握できる立場にあるため、産業医から意見を聴くことが適当とされています(健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針。以下「指針」)。
選任義務については産業医の選任義務の記事で解説しています。 - 50人未満の会社:産業医の選任義務はありません。指針は、選任義務のない事業場では、医学に関する知識を持つ医師等から意見を聴くことが適当で、地域産業保健センターの活用を図ることが適当としています。
- ストレスチェック後の面接指導の場合:面接指導を実施した医師から意見を聴くことが適当とされています(小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル)。
- 復職の場合:主治医の診断書とは別に、産業医等が職場復帰に関する意見書を作成します(職場復帰支援の手引き)。
【比較】主治医の「診断書」と産業医の「意見書」の違い
主治医の「診断書」は病気の診断や療養の必要性を示すもので、産業医等の「意見書」は、仕事との両立を考えた就業上の措置について会社に述べる意見です。どちらも医師が作成しますが、目的と視点が異なります。
| 項目 | 主治医の「診断書」 | 産業医等の「意見書」 |
|---|---|---|
| 目的 | 病状や療養の必要性を医学的に示す | 就業上の措置や配慮について会社に意見を述べる |
| 主な作成者 | 従業員が受診している主治医 | 産業医、面接指導を行った医師など |
| 判断の視点 | 治療・日常生活での回復の程度 | 職場で求められる業務との両立 |
| 会社での使い方 | 復職の意思確認などで従業員から提出を受ける | 就業上の措置を決めるときに勘案する |
職場復帰支援の手引きでは、主治医の診断は日常生活での回復程度で判断していることが多く、職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとは限らないとされています。そのため、産業医等が精査したうえで意見を述べることが重要です。
産業医の意見書の効力は?会社はどこまで従う義務があるか
「意見書に書かれた内容には、必ず従わなければいけないの?」と疑問に思うかもしれません。ここでは、条文の書き方に沿って、会社がすべきことを整理します。
会社に求められているのは、医師の意見を聴き、内容を勘案し、必要があると認めるときは措置を講じることです。あわせて、意見書を受け取りながら何も検討しないリスクと、産業医の「勧告」との違いも確認します。
会社は意見を聴き、勘案し、必要なら措置を講じる義務がある
条文は、意見書にそのまま従うことを求める書き方にはなっていません。会社に求められているのは、次の3つです。
- 医師の意見を「聴かなければならない」
- 聴いた意見を「勘案」する(内容を踏まえて検討する)
- 「必要があると認めるとき」は、労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を講じる
面接指導の場合は、この形で労働安全衛生法第66条の8第4項・第5項、第66条の10第5項・第6項に定められています。健康診断の場合も、厚生労働省のリーフレットが、有所見者への医師からの意見聴取と、医師の意見を勘案した事後措置は事業者の義務としています。
意見を聴いただけで終わりにしたり、内容を確認せずに放置したりすることはできません。医師の意見を聴き、内容を勘案し、必要があると認めるときは措置を講じる、という一連の対応が求められます。
一方で、具体的な措置の内容は、本人の実情や職場の状況を踏まえて会社が決めます。
意見書を受け取りながら何も検討しないリスク
労働契約法第5条は、使用者は、労働者が生命や身体の安全を確保しつつ働けるよう、必要な配慮をするものと定めています。一般に「安全配慮義務」と呼ばれる考え方です。
産業医や医師から従業員の健康について意見を受けたのに、何も検討しないまま放置すると、上で見た「意見を勘案し、必要があると認めるときは措置を講じる」という法令の定めに沿った対応をしていないことになります。意見書を受け取ったあとは、本人の意見を聴き、措置を検討して実施し、その経過を記録しておきましょう。
なお、罰則や過去の裁判例はこの記事では扱いません。個別の事案は、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士、弁護士などに確認してください。
産業医の「勧告」との違いとは?
産業医の「勧告」は、意見書とは別の仕組みです。産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときに、事業者へ必要な勧告をすることができます(労働安全衛生法第13条第5項)。産業医を選任している事業場での仕組みです。
両者の違いは次のとおりです。
| 項目 | 医師の「意見」(意見書) | 産業医の「勧告」 |
|---|---|---|
| 根拠 | 健康診断後は法第66条の4、面接指導後は法第66条の8第4項など | 法第13条第5項 |
| 会社の義務 | ・意見を聴く ・意見を勘案する ・必要と認めるときは措置を講じる |
・勧告を尊重する ・勧告の内容と講じた措置(講じない場合はその理由)を記録し、3年間保存する ・衛生委員会等へ遅滞なく報告する |
勧告を受けたときの対応は、産業医の勧告の記事で詳しく解説しています。
産業医の意見書を受け取った後の対応フロー【4ステップで解説】

意見書を受け取ったら、次の4ステップで進めます。国の指針やマニュアルに沿った流れです。
具体的には、意見書の内容を正確に理解する、措置を検討して本人の意見を聴く、就業上の措置を決めて関係者に共有する、講じた措置を記録・保管して状況を定期的に確認する、という流れです。各ステップで会社が押さえておきたい点を順に解説します。
ステップ1:意見書の内容を正確に理解する(不明点は医師に確認)
まずは、意見書に書かれた就業区分と、配慮してほしい内容を正確に把握します。指針は、就業区分の例として次の3つを挙げています。
- 通常勤務:通常の勤務でよい
- 就業制限:労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換などを講じる
- 要休業:休暇や休職などにより、一定期間勤務させない
記載内容が不明確な場合は、自己判断せずに、意見を述べた医師に内容を確認します(指針)。
ステップ2:措置を検討し、本人と面談して意見を聴く
意見書の内容をもとに、会社としてできる措置を検討します。措置を決める前には、あらかじめ本人の意見を聴き、十分な話合いを通じて本人の了解が得られるよう努めることが適当とされています(指針)。産業医がいる会社では、必要に応じて産業医の同席のもとで本人の意見を聴くことも適当とされています。
代替できる業務はあるか、部署の体制はどうかなど、会社の事情も踏まえて具体的な措置案を準備しましょう。一方的に決めるのではなく、本人の状況や希望を聞きながら、着地点を探ることが大切です。
ステップ3:就業上の措置を決定・実施し、関係者に情報共有する
話合いを経て措置を決め、実施します。実施にあたっては、本人の職場の管理監督者の理解が欠かせません。プライバシーに配慮しつつ、措置の目的や内容を必要な範囲で説明します。
共有する情報と、共有しない情報は次のように分けます。共有する情報は次のとおりです。
- 措置の目的
- 措置の内容(例:時間外労働の制限、就業場所の変更)
- 措置の期間
共有しない情報は次のとおりです。
- 診断名
- 検査値
- 具体的な愁訴など、詳細な医学的情報
指針は、産業保健業務従事者(産業医、保健師、衛生管理者など)以外の人に健康情報を取り扱わせるときは、就業上の措置に必要な最小限になるよう加工して提供するとしています。診断名や検査値などの加工前の情報は取り扱わせてはならないとされています。
ステップ4:講じた措置を記録・保管し、状況を定期的に確認する
意見書の内容と、講じた措置を記録して保管します。保存や提供のルールは、場面によって異なります。
- 健康診断の場合:聴いた医師の意見を健康診断個人票に記載する(労働安全衛生規則第51条の2)
- ストレスチェックの面接指導の場合:面接指導の結果の記録(医師の意見を含む)を5年間保存する(労働安全衛生規則第52条の18)
- 産業医を選任している場合:講じた措置、または講じようとする措置の内容(講じない場合は、その旨とその理由)を、意見聴取のあと遅滞なく産業医へ提供する(労働安全衛生規則第14条の2)
措置を始めたあとも、本人の状況を定期的に確認します。状態が改善したら、医師の意見を聴いたうえで、通常の勤務に戻すなどの見直しを行います(指針)。面談内容の記録の残し方は産業医面談記録の書き方の記事で解説しています。
意見書の受け取りから措置の運用までを自社だけで進めるのが不安な場合は、産業医の選任や月次の運用を外部に任せる方法もあります。

【判断に迷うケース別】より的確な意見を得るためのポイント

意見書への対応では、判断に迷う場面も出てきます。ここでは、ケース別に押さえておきたいポイントを整理します。
取り上げるのは、主治医の診断書と産業医の意見が食い違ったときの考え方、的確な意見を得るために会社が医師へ提供したい情報、健康情報の取り扱いや不利益取扱いの禁止といった意見書を扱ううえでの注意点の3つです。
主治医の診断書と産業医の意見が食い違ったときの考え方
復職の場面では、主治医の診断書と産業医の意見が食い違うことがあります。職場復帰支援の手引きには、次の考え方が示されています。
- 主治医の診断は、日常生活での病状の回復程度で判断していることが多く、職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとは限らない
- そのため、主治医の判断と職場で必要な業務遂行能力の内容を、産業医等が精査したうえで、採るべき対応を判断して意見を述べることが重要
- 最終的な職場復帰の決定は、事業者が行う
- あらかじめ主治医に、職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報を提供しておくとよい
復職判定の進め方の詳細は、産業医の復職面談ガイドを参照してください。
産業医が復職を認めない意見を出したときの対応については、以下の記事で解説しています。
>>産業医が復職を認めないとき|会社がやる5ステップと本人への伝え方
的確な意見を得るために会社が医師へ提供すべき情報
医師が現実的な意見を述べるには、本人の仕事や職場の実情を知る必要があります。会社は、医師から求められたときは、意見聴取に必要な労働者の業務に関する情報を、速やかに提供しなければなりません(労働安全衛生規則第51条の2第3項)。
指針は、適切に意見を聴くため、必要に応じて次の情報を提供することが適当としています。
- 作業環境
- 労働時間
- 労働密度
- 深夜業の回数と時間数
- 作業態様
- 作業負荷の状況
- 過去の健康診断の結果
このほか、職場巡視の機会や、健康診断の結果だけでは判断できない場合の本人との面接の機会も、あわせて提供することが適当とされています。地域産業保健センターに相談する場合も、これらの情報を整理しておくと、相談がスムーズに進むと考えられます。
意見書を扱う上での注意点(健康情報の取り扱い・不利益取扱いの禁止)
意見書には健康情報が含まれます。取り扱いには次の点に注意してください。
- 健康情報の取り扱い:診断名、検査値、具体的な愁訴などの詳細な医学的情報は、産業保健業務従事者以外に取り扱わせてはならないとされています(指針)。意見書は、閲覧できる人を必要最小限に限って保管しましょう。
- 医師の意見と大きく異なる措置:健康診断の結果に基づく措置で、医師の意見と内容や程度が著しく異なるものや、本人の実情が考慮されていないものは、合理的とはいえない不利益な取扱いにあたり得るとされています(指針)。
- 健康診断結果を理由とした不利益な取扱い:解雇、契約の不更新、退職勧奨などは行ってはならないとされています(指針)。
- ストレスチェックの面接指導の申出:申出をしたことを理由に、不利益な取扱いをしてはなりません(労働安全衛生法第66条の10第3項)。
措置の目的は、あくまで従業員の健康の確保です。必要な範囲を超えて不利益を与えることは避けましょう。
産業医がいない中小企業はどうすれば?意見聴取の相談先
ここまで意見書について解説してきましたが、「自社には産業医がいない」という会社も多いでしょう。最後に、産業医がいない会社が医師の意見を聴くための相談先を紹介します。
50人未満でも健康診断後の医師の意見聴取は必要
従業員50人未満の事業場では産業医の選任義務はありません。ただし、健康診断で異常の所見があった従業員について医師の意見を聴くことは、事業場の規模にかかわらず事業者の義務です。
厚生労働省のリーフレットも、意見聴取と、医師の意見を勘案した事後措置は労働安全衛生法に基づく事業者の義務で、一般的に小規模事業場で実施率が低いとして、徹底を呼びかけています。
また、労働安全衛生法第13条の2は、産業医を選任する義務のない事業場について、医学に関する知識を有する医師等に、労働者の健康管理等の全部または一部を行わせるよう努めなければならないと定めています。努力義務ですが、産業医がいないからといって、健康診断後の対応をしなくてよいわけではありません。
まずは公的な「地域産業保健センター」の活用を検討する
厚生労働省のリーフレットによると、地域産業保健センター(地さんぽ)は、労働者50人未満の小規模事業場への支援として、産業医・保健師を配置し、次の対応をしています。
- 健診結果についての医師からの意見聴取
- 長時間労働者・高ストレス者に対する面接指導
- 産業医等の事業場訪問による保健指導
- 労働者の健康に係る各種相談
全国に350か所あります。最寄りのセンターの連絡先や利用方法は、労働者健康安全機構のページで案内されています。費用や利用条件は、お住まいの地域のセンターに確認してください。
継続的な支援や専門的な相談には外部委託サービスも選択肢に
産業医を選任して、職場巡視や面談などの月次の運用まで任せたい場合は、産業医サービスの外部委託も選択肢です。外部サービスを使えば、自社の状況に合った産業医を選任し、原則月1回の訪問(要件によっては2か月に1回)で、職場巡視や面談などの運用まで任せられます。
メンタルヘルス不調への対応が必要な事業場では、精神科・心療内科の医師を含めて検討することもできます。すでに産業医や保健師がいる場合は、切り替えずに連携する形や、事務作業だけを委託する形もあります。

まとめ
産業医の意見書は、従業員が安全に働き続けるための措置について、医師が会社に述べる意見を書面にしたものです。会社は、医師の意見を聴き、勘案し、必要があると認めるときは措置を講じる必要があります。意見書にそのまま従うことを定めた書き方ではありませんが、聴いたまま放置することはできません。
意見書を受け取ったら、内容を確認し、本人の意見を聴き、措置を決めて実施し、記録するという流れで進めます。産業医がいない従業員50人未満の会社でも、健康診断後の医師の意見聴取は必要です。まずは地域産業保健センターの活用を検討し、継続的な体制づくりが必要になったら産業医の選任や外部委託も検討しましょう。

