「面談後の記録に何をどこまで書けばいいかわからない」「個人情報だからフォーマットの扱いに悩む」といったお悩みはありませんか。この記事を読めば、必須の記載項目からプライバシー保護のために書いてはいけないことの境界線まで、実務で迷わないためのポイントがわかります。
産業保健と健康経営を支援するプロの知見を基に、産業医業務の効率化や体制構築でお困りの担当者様をサポートします。
産業医面談記録の作成はなぜ重要?法令上の義務と2つの目的

産業医の選任義務を果たす企業にとって、面談記録の作成は法令上の義務であるとともに、企業の安全配慮義務の証明や職場環境の改善に繋がる重要な業務です。面談を実施した後は、その内容を正確に記録し、適切に保管することが求められます。
記録を残すことは、単なる事務作業ではなく、従業員と会社双方を守るための大切なプロセスといえます。記録の作成と保存は労働安全衛生規則によって定められており、これを怠ると法令違反になる可能性があります。しかし、その目的は法令遵守だけにとどまりません。
記録を適切に活用することで、より良い職場づくりを推進できると考えられています。
目的1:企業の安全配慮義務を果たすための証拠保全
産業医の面談記録は、企業が安全配慮義務を適切に果たしたことを示す客観的な証拠として機能します。安全配慮義務とは、企業が従業員の生命や健康を危険から守るように配慮すべき義務のことです。
万が一、従業員の健康問題が労務トラブルに発展した場合、企業がどのような対応をとってきたかが問われることになります。その際に、産業医の専門的な見解に基づき、適切な面談を実施し、必要な措置を検討したことを証明する資料として、面談記録が重要な役割を果たします。
具体的な対応履歴がなければ、適切な措置を講じていたと主張することは難しくなるかもしれません。
目的2:職場環境の改善に向けたデータとしての活用
面談記録は、職場環境の改善に向けた貴重なデータとして活用できます。個々の従業員の面談記録を個人が特定できないように集計・分析することで、組織全体の健康課題が見えてくるからです。
例えば、特定の部署でメンタルヘルスの相談が多発している、あるいは特定の業務で長時間労働が常態化しているといった傾向を把握できます。こうした分析結果は、具体的な職場環境改善のアクションプランを立てるための根拠となります。
記録を「点」で終わらせず、「線」や「面」で捉えることで、より戦略的な健康経営の推進が可能になるのです。
すぐに使える|産業医面談記録のテンプレートと項目別記載例

産業医の面談記録を効率よく作成するため、すぐに業務で活用できるフォーマットの基本形と、状況別の記載例を紹介します。法令で定められた項目を含みつつ、実務で使いやすい形に整えることがポイントです。
どのようなフォーマットで記録を残すべきか迷う担当者の方は、まず基本的な項目を押さえたテンプレートを作成することをおすすめします。一度ひな形を用意しておけば、都度の業務負担を軽減でき、記録の質も安定させられます。
面談記録とあわせて、産業医との契約書の内容も定期的に見直しておくと、業務範囲の認識違いを防げます。
そのままコピーして使える|面談記録フォーマットの記載例
産業医面談記録の基本的なフォーマットを、下表にまとめました。コピーしてご利用いただけます。
| 項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
| 面談実施日 | 2024年〇月〇日(〇) 14:00~14:30 |
| 面談対象者 | 氏名:〇〇 〇〇 所属:営業部 第一課 |
| 面談実施者 | 産業医:〇〇 〇〇 医師 |
| 同席者 | 人事部:〇〇 〇〇 |
| 面談の経緯・目的 | ・長時間労働者に対する面接指導 ・ストレスチェック後の高ストレス者面談 |
| 本人からの申告内容 (主訴・自覚症状など) |
・ここ1カ月、残業が月80時間を超える日が続いている ・寝つきが悪く、朝起きるのがつらいと感じる ・業務中の集中力が続かないことがある |
| 産業医による所見 (客観的事実) |
・問診の結果、疲労の蓄積が認められる ・睡眠不足による日中の眠気や倦怠感が強い様子 |
| 産業医による意見 (就業上の措置など) |
【区分】就業制限 【意見】 ・1カ月程度の時間外労働の制限(月20時間以内)が望ましい ・業務内容の見直し、業務量の調整を検討する必要がある ・2週間後に再度面談を実施し、経過を観察する |
| 特記事項 | ・本人の同意を得て、上記措置について直属の上長へ情報提供を行う |
【状況別】面談記録の具体的な書き方と記載例
面談記録を作成する際は、対象者の状況に応じて記載内容のポイントが変わります。ここでは、長時間労働者、メンタルヘルス不調者、休職・復職者の3つの状況に分けて、書き方のポイントと記載例を解説します。
長時間労働者の場合
時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる従業員などに対する面接指導の記録です。客観的な労働時間と、それによる心身への影響を明確に記載します。
【記載のポイント】
- 客観的な労働時間(時間外・休日労働時間)
- 本人が申告する自覚症状(睡眠、食欲、疲労感など)
- 産業医による医学的な所見
- 就業上の措置に関する具体的な意見(労働時間の短縮、業務内容の変更など)
メンタルヘルス不調者の場合
ストレスチェックで高ストレス者と判定された従業員や、本人または上司からの申し出で実施される面談の記録です。プライバシーに配慮し、本人の同意なく機微な情報を記載しないよう注意が必要です。
【記載のポイント】
- 面談に至った経緯(ストレスチェック結果、本人からの申し出など)
- 本人が業務上の原因と考えているストレッサー
- 産業医から見た、業務遂行能力への影響
- 必要な措置に関する意見(業務負荷の軽減、配置転換の検討など)
休職・復職者の場合
私傷病により休職していた従業員の職場復帰を判断する際や、復職後のフォローアップ面談の記録です。復職可否の判断理由や、復職後の配慮事項を具体的に記載します。復職判断の考え方は、産業医の復職面談ガイドで詳しく解説しています。
【記載のポイント】
- 主治医からの診断書や意見書の内容
- 復職に向けた本人の意欲や現在の状態
- 産業医による復職可否の判断(試し出勤の要否など)
- 復職後の就業上の配慮(短時間勤務、業務内容の制限、定期的な面談など)
面談記録の作成や管理、産業医との連携に手間を感じている人事担当者の方もいらっしゃるかもしれません。記録の運用を効率化し、より戦略的な健康管理体制を築くためには、専門家のサポートを活用するのも有効な手段です。
産業医の選任から日々の運用まで、専門知識を持つパートナーに相談することで、担当者の負担を軽減し、本来注力すべき業務に集中できるようになります。

面談記録に記載すべき項目と「書いてはいけない」項目の境界線

産業医の面談記録には、法令で定められた必須項目と、従業員のプライバシー保護の観点から記載すべきでない項目が存在します。この境界線を正しく理解し、適切に記録を作成することが、コンプライアンス遵守と信頼関係の構築に繋がります。
安易な記録は、従業員のプライバシーを侵害したり、不利益な取り扱いに繋がったりするリスクをはらんでいます。何を書くかだけでなく、「何を書かないか」を意識することが重要です。
労働安全衛生規則で定められた必須記載事項
面談記録に記載すべき項目は、労働安全衛生規則で定められています。具体的には、以下の5つの項目を記録し、保存する義務があります。
- 実施年月日
- 当該労働者の氏名
- 面接指導を行った医師の氏名
- 労働者の勤務の状況、ストレスの状況、その他心身の状況
- 聴取した労働者の意見、就業上の措置に関する医師の意見
これらの項目は、面談が適切に実施されたことを示す最低限の記録です。実務上は、これらの情報に加えて、面談の経緯や同席者、具体的な措置内容なども記載しておくと、より実用的な記録になります。
【プライバシー保護】本人の同意なく記載すべきでない健康情報とは
面談記録には、本人の明確な同意なく記載してはならない情報があります。特に、病名や治療内容、家族関係といった機微な個人情報は「要配慮個人情報」にあたり、取り扱いには細心の注意が必要です。
本人の同意なく記載すべきでない情報の例は、下記のとおりです。
- 具体的な診断名:「うつ病」「適応障害」など
- 治療内容:通院先の医療機関名、処方されている薬剤名など
- 過去の病歴
- 家族の状況:家族構成、家庭内のプライベートな問題など
- その他、本人が業務に関係ないとして開示を望まない私的な情報
これらの情報を記録する必要がある場合は、なぜその情報が必要なのかを本人に丁寧に説明し、書面などで明確な同意を得ることが不可欠です。同意なく収集・記録することは、プライバシー侵害にあたる可能性があります。
診断名・治療内容・過去の病歴・家族の状況などの要配慮個人情報は、本人の明確な同意がない限り記載しないこと。同意なく収集・記録すると、プライバシー侵害にあたるおそれがある。
人事評価での不利益な扱いを防ぐための注意点
産業医の面談記録を、人事評価や異動、解雇といった処遇の判断材料として直接使用することは禁じられています。面談記録の目的は、あくまで従業員の健康確保と、安全に働ける職場環境の整備です。
この原則を逸脱しないために、以下の点に注意する必要があります。
- 目的外利用の禁止:記録は健康管理目的以外には使用しないことを社内規程で明確にする。
- 事実と意見の分離:本人の発言などの「事実」と、産業医の「意見」を明確に分けて記載する。
- 評価的な表現を避ける:「意欲が低い」「協調性がない」といった評価に繋がるような主観的な表現は用いない。
- アクセス権限の厳格化:人事評価の権限を持つ者が、不必要な健康情報にアクセスできないようにする。
健康情報を理由とした不利益な取り扱いは、従業員の産業医面談への不信感に繋がり、制度そのものが機能しなくなる恐れがあります。
作成した面談記録の適切な保管方法と情報管理のポイント

作成した面談記録は、法令に定められた期間、適切に保管するとともに、厳格な情報管理体制を構築する必要があります。情報漏えいや目的外利用を防ぎ、従業員が安心して面談を受けられる環境を整えることが企業の責任です。
ずさんな管理は、法令違反のリスクだけでなく、従業員との信頼関係を損なう原因にもなりえます。紙とデータの両方において、安全な保管方法を確立することが求められます。
法令で定められた保存期間と安全な保管場所(紙・データ別)
面談記録の保存期間は、労働安全衛生規則によって定められています。企業は、この法令で定められた期間、記録を適切に保存する義務を負っています。期間の起算日や具体的な年数については、所轄の労働基準監督署に確認することをおすすめします。
保管場所については、媒体に応じて以下のとおり安全性を確保する必要があります。
| 保管媒体 | 安全な保管方法の例 |
|---|---|
| 紙媒体 | ・施錠できるキャビネットや書庫に保管する ・保管場所への入退室管理を行う |
| データ | ・アクセス制限やパスワードを設定したサーバー、フォルダに保管する ・ウイルス対策ソフトを導入し、常に最新の状態に保つ ・担当者以外のPCには保存しない |
誰が閲覧できる?アクセス権限の正しい設定方法
面談記録は機微な個人情報を含むため、閲覧できる担当者を必要最小限の範囲に限定しなければなりません。誰が、どのような目的で閲覧できるのかを明確にルール化することが重要です。
アクセス権限を設定する際の考え方は、以下のとおりです。
- 原則的な閲覧者:産業医、保健師、および実務を担当する人事・労務担当者などに限定する。
- 情報共有の範囲:直属の上長などへ情報共有が必要な場合も、就業上の措置に必要な情報(例:「残業制限が必要」という結論のみ)に限定し、診断名や面談の詳細な内容まで共有しない。
- 規程の整備:「健康情報等の取扱規程」などを策定し、情報の取り扱いに関するルールを文書化し、社内に周知する。
従業員が「面談で話した内容が、知らないうちに多くの人に広まってしまうのではないか」という不安を抱くことのないよう、厳格な情報管理体制を構築し、そのルールを従業員に明確に伝えることが信頼に繋がります。
法令を遵守した記録の管理や、セキュアな情報管理体制の構築は、企業の信頼性を担保する上で不可欠です。しかし、法改正への対応や複雑な規程の整備に不安を感じることもあるかもしれません。
そのような場合は、労務管理や法令遵守の専門知識を持つ外部パートナーに相談し、自社の体制に漏れがないかを確認することをおすすめします。

面談記録を「就業上の措置」に繋げるための実践的な2ステップ

面談記録は、作成して保管するだけでは意味がありません。記録された内容を基に、従業員の健康を守るための具体的な「就業上の措置」へと繋げていくプロセスが重要です。このプロセスは、大きく2つのステップで進められます。
面談で明らかになった課題に対し、企業として具体的なアクションを起こすことで、産業医面談制度が実効性のあるものになります。
ステップ1:産業医から「意見書」を取得し、措置内容を検討する
面談記録をもとに、まずは産業医から就業上の措置に関する「意見書」を取得します。意見書は、面談結果を踏まえた医学的見地からの提言であり、企業が具体的な措置を検討する上での重要な判断材料となります(厚生労働省「面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル」)。
産業医の意見は、一般的に次の3つの区分で示されます。
- 通常勤務:これまでどおりの勤務で問題なし
- 就業制限:労働時間の短縮、時間外労働の禁止、業務内容の変更、配置転換などの配慮が必要
- 要休業:療養に専念するため、一定期間の休業が必要
企業は、この意見書の内容を尊重し、本人の状況や職場の実情を考慮しながら、実行可能な措置の内容を具体的に検討します。
ステップ2:本人への説明と同意を得て、関係者へ情報共有する
企業が検討した措置の内容は、必ず本人に丁寧に説明し、納得の上で同意を得る必要があります。一方的に措置を決定・実行するのではなく、本人との対話を通じて合意形成を図るプロセスが不可欠です。
同意を得た後、措置の実行に必要な情報を、関係者に共有します。このとき、プライバシーに配慮し、情報を伝える相手と内容を必要最小限に絞ることが重要です。
- 共有する相手:直属の上司、人事担当者など、措置の実行に直接関わる担当者に限定する。
- 共有する内容:診断名や面談の詳細ではなく、「〇月〇日まで残業を禁止する」「重量物の運搬作業は避ける」といった、業務遂行上必要な配慮事項のみを伝える。
このように、適切な手順を踏んで措置を実行し、その後の経過も定期的な面談でフォローしていくことが、従業員の健康回復と円滑な職場生活の継続に繋がります。
【独自ノウハウ】記録データを分析し「健康経営」を推進する方法

個々の面談記録は、集約して分析することで、組織全体の健康課題を可視化し、戦略的な「健康経営」を推進するための強力な武器になります。記録を個別の事後措置に留めず、未来への投資として活用することが可能です。
法令遵守という「守り」の側面だけでなく、生産性向上や企業価値向上といった「攻め」の健康経営に繋げる視点が、これからの企業には求められています。
複数名の記録から職場全体の健康課題を可視化する
複数の面談記録を、個人が特定できないように匿名化・統計処理することで、職場に潜む健康課題の傾向を明らかにできます。
例えば、以下のような分析が考えられます。
- 部署・職種別の傾向分析:特定の部署でメンタル不調の相談が集中していないか。特定の職種で身体的な不調を訴える人が多くないか。
- 相談内容のトレンド分析:長時間労働に関する相談が増えているのか、それとも人間関係に関する相談が増えているのか。
- 高ストレス者と労働環境の相関分析:ストレスチェック結果と、残業時間や休日出勤日数といった勤怠データを掛け合わせ、関連性を探る。
こうした分析を通じて、場当たり的な対応ではなく、データに基づいた効果的な対策を立案できるようになります。
分析結果を経営層へ報告し、健康経営優良法人認定に活用する
分析によって可視化された健康課題と、それに対する改善策の提案は、経営層への説得力ある報告資料となります。「従業員の健康への投資が、将来の生産性向上や離職率低下に繋がる」ことをデータで示すことで、経営判断を促し、必要な予算やリソースを獲得しやすくなります。
また、こうしたデータ分析に基づくPDCAサイクルの実践は、「健康経営優良法人」の認定審査においても高く評価される取り組みです。具体的な施策とその効果を客観的なデータで示すことは、認定取得に向けた強力なアピールポイントとなります。
産業医と連携して記録管理を効率化する実践的な工夫
面談記録の管理と分析を効率的に行うには、産業医や外部の専門サービスとの連携が有効です。当社のサービスでは、産業医の知見を活かし、記録管理を効率化するためのさまざまな工夫を取り入れています。
例えば、ストレスチェックの結果、健康診断結果、そして面談記録といった複数の健康情報をクラウド上で一元管理する仕組みを提供しています。これにより、紙の書類を探し回る手間がなくなり、必要な情報に迅速にアクセスできます。
さらに、蓄積されたデータを基に、社内の健康課題をまとめたKPIレポートを作成し、衛生委員会や経営会議での報告にそのまま活用することも可能です。代表が現役の産業医であり、精神科や心療内科の専門医とも連携しているため、メンタルヘルス対策の強化から健康経営の推進まで、企業のフェーズに合わせたきめ細かなサポートを提供します。
産業医の選任や交代、日々の運用、記録管理の効率化など、産業保健活動に関するお悩みは多岐にわたります。何から手をつければよいかわからない場合でも、まずはお気軽にご相談ください。貴社の状況に合わせた最適な体制づくりをお手伝いします。
まとめ
産業医の面談記録は、法令項目を網羅したフォーマットを使い、プライバシーに配慮して作成・保管することが重要です。記録を安全配慮義務の証明や職場改善に活かすことで、健康経営の推進にも繋がります。
産業医との連携や記録管理を含む日々の業務負担にお悩みの場合は、専門家がまるごとサポートしますので、下記よりお気軽にご相談ください。

