産業医が見つからないときは、まず「選任義務があるかを確認していない」「探しているが候補の医師に出会えない」「候補は見つかったが条件が合わず断られた」のどれに当たるかを切り分けると、次の一手が決まります。原因は状況によって違うため、この記事では、会社側で確認できる点を順に整理します。
対象は、従業員50人以上で産業医の選任義務がある会社と、50人未満で産業医を置きたい会社の人事・総務担当者、経営者の方です。法令の内容は、e-Gov法令検索と厚生労働省などの公的な資料で確認できた範囲だけを書いています。依頼先ごとの詳しい比較は、別の記事に案内します。
・産業医が見つからないときの3つの状況の切り分け
・選任義務の有無と、選任の期限
・探し方を見直す3つの視点
・探せる先と、公的な相談窓口
・条件の見直しと、外部委託という選択肢
・選任義務があるのに未選任のとき、確認すること
産業医が見つからないときは、まず状況を3つに分けて考える

「産業医が見つからない」と言っても、つまずいている場所は会社によって違います。次の3つのどれに近いかで、確認する内容が変わります。
- 状況A:選任義務があるのか、いつまでに選任するのかを、まだ確認していない
- 状況B:探してはいるが、候補の医師に出会えない、または連絡がつかない
- 状況C:候補の医師は見つかったが、条件が合わず断られた
状況A:選任義務があるかを、まだ確認していない
自社(正確には事業場)に産業医の選任義務があるかどうか、あるとしたらいつまでに選任するかを確かめる段階です。義務の有無によって、急ぐ内容も、頼める先も変わります。次の章で、条文で確認できる範囲を整理します。
状況B:探しているが、候補の医師に出会えない・連絡がつかない
探し方の側に見直せる点があるかもしれません。探している相手が産業医になれる医師か、依頼の内容や条件が伝わっているか、探す先が1つに偏っていないか、の3点を確認します。
状況C:候補は見つかったが、条件が合わず断られた
会社が示した条件と、医師側の事情が合っていない可能性があります。断られた理由は医師や依頼先によって異なり、外から一律には言えません。会社側で調整できる条件がないかを、訪問頻度や業務範囲などの面から見直します。
最初に確認する:選任義務の有無と期限

ここでは、選任義務の対象となる事業場、選任の期限と労働基準監督署への報告、50人未満の事業場に求められる努力義務を、条文で確認できる範囲で整理します。
状況を問わず、最初に確認したいのが選任義務の有無です。産業医の選任は、労働安全衛生法などで次のように定められています。
対象は「常時50人以上の事業場」
産業医の選任義務があるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です(労働安全衛生法施行令 第5条、厚生労働省「産業医について教えて下さい」)。
- 数える単位は、会社全体ではなく「事業場」ごとです
- 産業医は「医師のうちから」選任します(労働安全衛生法 第13条第1項)
- 常時1,000人以上(有害業務は500人以上)の事業場は専属の産業医が必要で、それ以外の事業場は嘱託でも差し支えないとされています
パートやアルバイトを含めた人数の数え方については、以下の記事で解説しています。
>>中小企業の産業医選び方|選任義務から健康経営の進め方まで
事業場の範囲や人数の数え方に迷うときは、所轄の労働基準監督署に確認してください。
選任は事由の発生から14日以内、選任後は労働基準監督署へ報告
産業医は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任します(労働安全衛生規則 第13条第1項第1号)。選任したときは、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告します(同条第2項)。
報告の事項には、産業医の氏名や選任年月日のほか、産業医が次の章で触れる要件のどれに当たるか、医籍の登録番号、専門科名などが含まれます。選任の手順と報告書の書き方については、以下の記事で解説しています。
>>産業医の選任義務とは?50名以上の罰則・費用・探し方を解説
>>産業医選任報告書の書き方|様式から提出までの手順を4ステップで解説
50人未満の場合は、選任義務はないが努力義務がある
常時使用する労働者が50人未満の事業場には、産業医の選任義務はありません。ただし、医学に関する知識を有する医師または保健師に、労働者の健康管理等の全部または一部を行わせるよう努めなければならないとされています(労働安全衛生法 第13条の2、労働安全衛生規則 第15条の2)。
50人未満の会社が確認したいことは、以下の記事にまとめています。
>>産業医は50人未満でも必要?選任義務の有無と、会社がやるべきことを解説
探し方を見直す3つの視点
選任義務があることを確認できたら、探し方を見直します。次の3点は、会社の側で確かめられます。
具体的には、探している相手が産業医の要件を満たす医師か、依頼の条件が具体的に伝わっているか、探す先が1つに偏っていないか、の3点です。それぞれ、根拠になる条文や、依頼の前に整理しておきたい項目とあわせて説明します。
探している相手は、産業医になれる医師か
産業医は、医師であるだけでなく、労働者の健康管理等に必要な医学に関する知識について、厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければなりません(労働安全衛生法 第13条第2項)。要件は、次のとおりです(労働安全衛生規則 第14条第2項)。
- 厚生労働大臣が指定する者(法人に限る)が行う、労働者の健康管理等に必要な医学に関する知識についての研修を修了した者
- 産業医科大学など厚生労働大臣が指定する大学で、産業医の養成等を目的とする課程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
- 労働衛生コンサルタント試験(区分は保健衛生)に合格した者
- 大学で労働衛生に関する科目を担当する教授・准教授・講師(常時勤務する者)の職にある、またはあった者
- 上記のほか、厚生労働大臣が定める者
また、次の人は産業医に選任できません(労働安全衛生規則 第13条第1項第2号)。
- 事業者が法人の場合は、その法人の代表者
- 事業者が法人でない場合は、事業を営む個人
- 事業場で事業の実施を統括管理する者
ただし、法人の代表者と事業を営む個人については、事業場の運営について利害関係を有しない場合は除かれます。知り合いの医師や、社内にいる医師に頼める場合でも、上の要件のどれに当たるかを、候補の医師に先に確認しておくと、選任後の報告で困りません。
依頼の条件が、具体的に伝わっているか
産業医の職務は、健康診断の結果に基づく措置、面接指導、ストレスチェックと面接指導、作業環境の維持管理、健康相談などに及びます(労働安全衛生規則 第14条第1項)。産業医は少なくとも毎月1回、作業場等を巡視し(同規則 第15条)、衛生委員会の委員にもなります(労働安全衛生法 第18条第2項第3号)。
職務の幅が広いため、依頼が漠然としていると、医師の側が引き受けられるかを判断しにくくなることが考えられます。依頼する前に、次の項目を整理しておくと、条件が伝わりやすくなります。
- 事業場の所在地、従業員数(事業場ごと)、業種
- 依頼したい業務(職場巡視、衛生委員会への出席、面談、健診結果の確認、ストレスチェック後の対応など)。面談の種類については、以下の記事で整理しています
>>産業医面談の基準|5つの場面別に、対象者・義務の有無・面談の内容を整理 - 訪問の頻度、曜日や時間帯の希望
- オンラインでの面談や会議を認めるか
- 契約の形態と期間
契約前に確認したい業務の範囲については、以下の記事が参考になります。
>>非常勤産業医の選び方と契約|『名ばかり産業医』にしない9つの確認点
>>産業医の契約書の書き方|必須8項目とトラブル対策を解説
探す先が1つに偏っていないか
1つの窓口だけで探していて、返事が来ない、または候補が出てこないときは、探す先を増やして並行して当たる方法があります。
探せる先と、公的な相談窓口
産業医の依頼先には、産業医事務所や紹介会社、地域の医師会など、いくつかの種類があります。ここでは、探す先を増やすときの入口として依頼先の種類を挙げ、公的な相談窓口である産業保健総合支援センターについて、確認できた役割を整理します。
依頼先の種類(詳しい比較は別記事)
産業医の依頼先には、産業医事務所、産業医の紹介会社、地域の医師会、健診機関に付随するサービスなどがあります。それぞれの特徴と違い、サービスを選ぶときの比較点については、以下の記事で解説しています。
>>産業医事務所とは?紹介会社・医師会など依頼先4系統との違いを比較
>>産業医サービス比較5つのポイント|失敗しない選び方を解説
この記事では比較を繰り返さず、探す先を増やすときの入口として挙げるにとどめます。
産業保健総合支援センターに相談する
各都道府県にある産業保健総合支援センター(さんぽセンター)は、労働者健康安全機構が運営する窓口です。
産業医学、労働衛生工学、メンタルヘルス等に経験のある専門スタッフが、産業医・産業看護職・衛生管理者・人事労務担当者などからの産業保健に関するさまざまな問題について、窓口・電話・FAX・メールなどで相談に応じ、解決方法を助言するとされています(労働者健康安全機構「産業保健の相談」)。
受付の電話番号や実施時間は、最寄りのセンターで確認できます。厚生労働省のページには、産業保健総合支援センターがメンタルヘルス対策の相談対応や、事業場への訪問による制度導入支援などを無料で提供していると書かれています(厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」)。
- 確認できたのは「産業保健に関する相談に助言する窓口」であることです。産業医の候補者を紹介する窓口とは書かれていません
- 産業医探しの進め方を相談できるかは、問い合わせのときに確かめてください
- 労働者数50人未満の事業場は、地域産業保健センター(地さんぽ)も使えます。詳しくは、以下の記事を参照してください
>>産業医は50人未満でも必要?選任義務の有無と、会社がやるべきことを解説
条件の見直しと、外部委託という選択肢
探し方を見直しても見つからない、または断られたときは、会社側の条件を見直すか、産業医の選任と運用を外部に任せることを検討します。
ここでは、訪問頻度・業務範囲・オンライン対応について、見直せる条件と見直せない点を分けて整理します。あわせて、選任から月次の運用までを外部に任せる委託と、必要なときだけ依頼するスポット契約という選択肢を紹介します。
見直せる条件:訪問頻度・業務範囲・オンライン対応
見直せる条件と、見直せない点を分けて考えます。
- 訪問頻度:産業医の巡視は、少なくとも毎月1回です。ただし、事業者から毎月1回以上、衛生管理者の巡視の結果などの情報の提供を受けていて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも2か月に1回になります(労働安全衛生規則 第15条)。会社がこの情報提供を毎月行える体制を整えられるかが、条件になります
- 業務範囲:選任義務のある事業場では、産業医の職務は労働安全衛生規則(第14条第1項・第15条など)で定められているため、それを前提に依頼内容を考えます。見直せるのは、産業医の専門業務と、日程調整・議事録・書類作成などの事務作業を切り分ける方法です。既存の産業医がいる場合の連携については、以下の記事でも触れています
>>非常勤産業医の選び方と契約|『名ばかり産業医』にしない9つの確認点 - オンライン対応:面談や会議をオンラインで行うことを認めるかは、依頼の条件として先に決めて伝えておきます
外部に任せる選択肢:医師コミュニティを基盤にした委託とスポット契約
産業医探しから、選任後の月次の運用までを外部に任せる方法があります。Medpartnerは、医師コミュニティを基盤としているため、全国の事業所に産業医をアサインできます。現場への訪問を前提とした運用で、訪問頻度は原則月1回、要件によっては2か月に1回です。選任だけでなく、職場巡視、衛生委員会への出席、面談などの月次の運用も担います。
精神科・心療内科の医師も派遣できます。すでに産業医がいる場合は、切り替えずに連携でき、事務作業だけの委託も可能です。詳しくは、産業医の選任から運用までの委託をご覧ください。
また、Medpartnerは、必要なときだけ単発で依頼するスポット契約にも対応しています。選任義務のある事業場では、巡視などの職務を行える契約が必要になるため、スポット契約だけで足りるとは限りません。スポット契約の位置づけについては、以下の記事で整理しています。
>>産業医のスポット契約とは?頼める場面と頼めない場面、50人未満の考え方

選任義務があるのに未選任のとき、確認すること
選任義務があるのに、まだ産業医を選任できていないときは、条文で確認できる内容を事実として押さえたうえで、次の一手を決めます。
ここでは、選任の期限と報告、違反したときの定めなど、条文で確認できることを整理します。そのうえで、個別の扱いを所轄の労働基準監督署に確認することと、選任までの時間を短くするためにいまからできることを紹介します。
条文で確認できること(期限・報告・罰則)
- 期限:選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任します(労働安全衛生規則 第13条第1項第1号)
- 報告:選任したときは、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告します(同条第2項)
- 罰則:産業医を選任する義務(労働安全衛生法 第13条第1項)に違反したときは、50万円以下の罰金と定められています(労働安全衛生法 第120条第1号)。違反行為をした者のほか、その法人または人にも罰金刑が科されます(同法 第122条)
- 猶予:確認した条文(同法 第13条、規則 第13条)には、探しても見つからない場合に期限を延ばす定めは書かれていません
労働基準監督署への確認と、いまからできること
個別の事情がどのように扱われるかは、条文だけでは分かりません。所轄の労働基準監督署に、現在の状況を伝えて確認してください。あわせて、次のことを進めておくと、選任までの時間を短くしやすくなります。
- 上で整理した依頼の条件(業務、頻度、オンラインの可否、契約の形態)を書面にまとめる
- 探す先を増やして、並行して依頼する
- 産業保健総合支援センターに、産業保健に関する相談として問い合わせる
- 探し方や運用を外部に任せる選択肢も検討する
産業医の探し方から選任、月次の運用まで、まとめて相談したい場合は、産業医の選任・運用を担うサービスへの相談も選択肢になります。
まとめ
産業医が見つからないときは、状況を「選任義務の確認が済んでいない」「候補に出会えない」「条件が合わず断られた」の3つに分けて考えます。
- 選任義務があるのは、常時50人以上の事業場です。事由が発生した日から14日以内に選任し、遅滞なく労働基準監督署長へ報告します
- 探し方は、探している相手が産業医の要件を満たすか、依頼の条件が具体的に伝わっているか、探す先が偏っていないかの3点で見直します
- 産業保健総合支援センターは、産業保健に関する相談に助言する公的な窓口です。産業医の紹介まで行うかは、問い合わせ時に確認します
- 訪問頻度の見直しや、事務作業の切り分け、外部委託、スポット契約は、条件を整えるための選択肢です
- 未選任のときの個別の扱いは、所轄の労働基準監督署に確認します


