ストレスチェック制度における、派遣社員への対応について、「実施義務はどちらにあるのか」「誰が何をすべきか」など、対応に悩んでいませんか。派遣社員を雇用する派遣元企業も、受け入れる派遣先企業も、それぞれの役割と責任を正しく理解することが重要です。
適切な対応ができないと、法令違反のリスクや従業員のメンタルヘルス不調につながる可能性があります。この記事では、派遣社員のストレスチェックにおける実施義務の所在から、派遣元と派遣先の具体的な役割分担、実務で起こりがちなトラブルまでを詳しく解説します。
最後まで読めば、複雑なルールを正しく理解し、安心してストレスチェック制度を運用できるようになるでしょう。
- 派遣社員のストレスチェック、実施義務は原則どちらにあるか
- 派遣元・派遣先がそれぞれ担うべき役割の違い
- 従業員50名のカウントに派遣社員を含めるかどうかの判断
- 高ストレス者が出た場合の医師による面接指導の連携フロー

派遣社員のストレスチェック、実施義務は「派遣元」にあるのが原則

派遣社員のストレスチェックは、原則として雇用契約を結んでいる派遣元事業者が実施義務を負います。派遣先企業にも、派遣社員が安全に働けるよう配慮する「安全配慮義務」があり、ストレスチェックへの協力が求められます。
厚生労働省の指針に基づく「派遣元」の実施義務
厚生労働省は、ストレスチェックや面接指導といった「個人対応」について、法令上、雇用関係を有する派遣元が実施することとされている、としています(厚生労働省「派遣労働者に対するストレスチェック等の実施に関する考え方」)。
ストレスチェックは労働安全衛生法に基づく制度であり、労働者の健康確保措置は、直接の雇用主である事業者が責任を負うのが基本だからです。したがって、派遣社員に対するストレスチェックの実施計画の策定、検査の実施、結果の本人への通知、そして労働基準監督署への報告といった一連の実施手順は、すべて派遣元事業者の義務です。
ストレスチェックの一連の実施方法については以下で詳しく解説しています。
>>ストレスチェックの導入方法|義務や手順、報告まで7ステップで解説
派遣先が負う「安全配慮義務」との違いとは?
派遣先が負う安全配慮義務は、派遣社員が安全で健康に働けるよう配慮する義務であり、ストレスチェックの直接的な実施義務とは異なります。しかし、派遣社員が実際に働く場所は派遣先であるため、その職場環境がストレスの原因になることも少なくありません。
そのため、派遣先は派遣元が実施するストレスチェックに協力する責任があると考えられています。具体的には、ストレスチェックの実施日時や場所の調整に協力したり、高ストレス者への就業上の措置が必要になった場合に連携したりすることが求められます。
【役割分担リスト】派遣元と派遣先がそれぞれ「やること」を対比で解説

派遣元と派遣先では、ストレスチェックに関してそれぞれが担うべき役割が異なります。円滑な制度運用のためには、両者が自社の役割を正しく理解し、連携することが不可欠です。
下表に、派遣元事業者と派遣先事業者がそれぞれ実施すべきことをまとめました。
派遣元事業者が実施すべきこと(実施者としての義務)
派遣元事業者は、ストレスチェックの計画から実施、結果の通知、面接指導の申し出勧奨まで一連のプロセスに責任を持ちます。派遣元が主体となって進めるべき具体的な項目は、次のとおりです。
- ストレスチェック制度の基本方針の策定と周知
- 実施計画の策定(実施者、実施期間、対象者など)
- ストレスチェックの実施(質問票の配布・回収)
- ストレスチェック結果の本人への通知
- 高ストレス者に対する医師による面接指導の申し出勧奨
- 面接指導の実施(希望者に対して)
- 労働基準監督署への報告書の提出
派遣先事業者が協力・実施すべきこと(安全配慮義務に基づく対応)
派遣先事業者は、派遣元がストレスチェックを円滑に実施できるよう協力し、職場環境改善などの措置を講じる必要があります。派遣先が対応すべき具体的な項目を下記に整理します。
- 派遣元が実施するストレスチェックへの協力(受検機会の確保など)
- 派遣社員の勤務状況に関する情報提供(派遣元からの要請があった場合)
- 高ストレス者への就業上の措置に関する協力(業務内容の変更や労働時間短縮など)
- 集団分析結果に基づく職場環境の改善
- 派遣社員を含めた集団分析の実施(派遣元と合意の上)
従業員50名のカウントに派遣社員は含まれる?迷いやすい3つのケース

従業員50人以上でのストレスチェック実施義務の対象となる人数のカウントにおいて、派遣社員を誰がどのように数えるかは、派遣元と派遣先で異なります。この判断を誤ると、義務があるにもかかわらず未実施となる可能性があるため注意が必要です。
ストレスチェック義務の対象となる「常時使用する労働者」の定義
ストレスチェック義務の対象となる「常時使用する労働者」とは、契約期間や労働時間などの要件を満たす労働者を指します。具体的には、以下の2つの要件をいずれも満たす労働者が該当するとされています。
- 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約の場合は、1年以上使用されることが見込まれる者、および更新により1年以上使用されている者)
- その者の1週間の労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上である者
この定義は、ストレスチェックだけでなく、健康診断の対象者や産業医の選任義務を判断する際にも用いられます。
ケース1:派遣元事業場でのカウント方法
派遣元事業場では、自社で雇用している派遣社員を「常時使用する労働者」としてカウントします。派遣会社(派遣元)は、派遣登録しており、かつ上記の「常時使用する労働者」の定義に当てはまるすべての派遣社員を人数に含めて、ストレスチェックの実施義務があるかどうかを判断します。
たとえば、派遣元企業A社が、常時使用する労働者の定義に合致する派遣社員を60名雇用している場合、A社はストレスチェックの実施義務を負うことになります。
ケース2:派遣先事業場でのカウント方法
派遣先事業場では、受け入れている派遣社員も含めて「常時使用する労働者」をカウントします。派遣社員に対してストレスチェックを実施する義務は雇用主である派遣元にありますが、事業場の規模を判定するときの人数の数え方はそれとは別で、派遣社員を含めて数える点に注意が必要です(厚生労働省「ストレスチェック制度関係Q&A」Q18-1)。
たとえば、派遣先企業B社に正社員40名と、派遣会社から受け入れた派遣社員15名が働いている場合、事業場の人数は合わせて55名としてカウントされ、B社にストレスチェックの実施義務が生じます。ただし、B社が実施する対象は自社が直接雇用する40名です。派遣社員15名については派遣元に実施義務があります。
「自社の直接雇用は50名未満だから対象外」と判断してしまうと、本来必要な実施を見落とすおそれがあります。派遣社員を受け入れている事業場では、人数の数え方を必ず確認してください。
高ストレス者発生時の医師による面接指導|派遣元・派遣先の連携フロー

高ストレス者が発生した場合の医師による面接指導は、派遣元が実施義務を負いますが、派遣先の協力が不可欠です。職場環境の改善など、実効性のある措置を講じるためには、両社の緊密な連携が求められます。
面接指導の実施義務は「派遣元」が負う
高ストレス者から申し出があった際の医師による面接指導は、雇用主である派遣元事業者が実施する義務を負います。医師による面接指導は、ストレスチェックの結果を受けて行う「個人対応」にあたり、雇用関係を有する派遣元が実施することとされています(厚生労働省「派遣労働者に対するストレスチェック等の実施に関する考え方」)。
面接指導を実施する医師は、必ずしも産業医である必要はありませんが、企業の事情を理解している産業医が担当することが望ましいと考えられています。
派遣先も連携が不可欠な理由:職場環境の把握と安全配慮義務
派遣先は、派遣社員の具体的な就業環境を把握しているため、面接指導後の就業上の措置を適切に講じる上で連携が不可欠です。面接指導を行った医師から、業務内容の変更や労働時間の短縮といった意見が出された場合、それを実行できるのは実際に指揮命令を行っている派遣先だからです。
派遣元は、派遣社員本人の同意を得た上で、面接指導の結果や医師の意見を派遣先に提供します。派遣先は、その情報に基づき、派遣元と協議しながら具体的な就業上の措置を検討・実施する役割を担います。
実務で役立つ連携のポイントと契約時の注意点
円滑な連携のためには、高ストレス者発生時の連絡体制や情報共有の範囲、費用負担について事前に取り決めておくことが重要です。実務で役立つ連携のポイントは以下のとおりです。
- 情報共有のルールを定める: 本人の同意を前提に、誰が、いつ、どの範囲の情報を共有するかを明確にする。
- 連絡窓口を一本化する: 派遣元と派遣先で、それぞれの担当者を決めておく。
- 就業上の措置の協議方法を決める: 医師の意見をどう反映させるか、両社での話し合いの手順を確認する。
- 費用負担を明確にする: 面接指導やそれに伴う措置にかかる費用の分担を契約書に記載する。
派遣社員の高ストレス者対応は、法令遵守はもちろん、関係者間の細やかな連携が求められます。もし、面接指導を行う医師が見つからない、派遣先との連携に不安があるといった課題をお持ちであれば、専門家のサポートを検討するのも一つの方法です。
Medpartnerでは、全国の医師ネットワークを活かし、ストレスチェック後の医師による面接指導まで一気通貫でサポートします。法令に準拠した適切な対応について、まずはお気軽にご相談ください。

派遣社員を含めた「集団分析」はどうする?結果共有と費用負担のルール

派遣社員を含めた集団分析は、派遣先が任意で実施できますが、実施にあたっては派遣元との合意形成が重要になります。職場環境の改善を目的とする集団分析は、派遣社員を含めて行うことで、より正確な実態把握につながります。
派遣先の判断で「派遣社員を含めた集団分析」を実施する場合
派遣先が職場環境改善のために派遣社員を含めて集団分析を行うことは、望ましい対応とされています。派遣社員も同じ職場で働いているため、彼らのストレス状況を含めて分析することで、職場全体の課題がより明確になるからです。
ただし、派遣先のストレスチェックに派遣社員を含める場合、派遣元と協議の上、派遣社員本人の同意を得る必要があります。勝手に派遣社員を対象に加えることはできないため、事前の調整が不可欠といえます。
分析結果を派遣元・派遣先で共有する際の取り決め
集団分析の結果を共有する際は、個人が特定されないように加工し、共有の目的や範囲を事前に両社で合意する必要があります。集団分析は原則として10人以上の集団で行い、個人が特定されない状態にします。
厚生労働省は、10人を下回る場合でも、評価点の平均値を用いるなど個人が特定されるおそれのない方法であれば集計・分析は可能としています(厚生労働省「ストレスチェック制度関係Q&A」Q15-1)。
派遣先で実施した集団分析の結果を派遣元に共有する場合も、この原則を守る必要があります。どの部署単位で分析し、どの範囲の情報を共有するか、あらかじめ両社で取り決めを結んでおくことが、後のトラブルを防ぐことにつながります。
費用負担は誰がする?契約時に明確にすべき項目
派遣社員を含めた集団分析や、それに伴う追加対応の費用負担については、派遣元と派遣先の間で事前に契約書に明記しておくべきです。法令で明確な定めがないため、どちらが負担するかは両社の協議によって決まります。
一般的には、派遣先が主体となって職場環境改善のために集団分析を希望する場合、その費用は派遣先が負担するケースが多いと考えられます。契約時には、以下の項目について費用分担を明確にしておくとよいでしょう。
- 派遣社員を対象に含める場合のストレスチェック実施費用
- 集団分析の実施費用
- 分析結果に基づく研修やコンサルティングなどの費用
実務で起こりがちな3つのトラブルと予防策

派遣社員のストレスチェックをめぐっては、役割分担や情報共有に関する誤解から、実務上のトラブルが発生しがちです。ここでは、よくある3つのトラブルとその予防策を解説します。
トラブル1:「派遣先は何もやらなくていい」という誤解
「派遣先は何もやらなくていい」というのは誤解であり、安全配慮義務に基づき、職場環境への配慮や実施協力が求められます。ストレスチェックの実施義務は派遣元にありますが、派遣社員が働く環境を提供しているのは派遣先です。
【予防策】
派遣基本契約書などで、ストレスチェックの実施協力、高ストレス者への対応連携、職場環境改善への協力など、派遣先の協力義務を明記しておくことが有効です。
トラブル2:「高ストレス者情報は自由に共有できる」という誤解
高ストレス者に関する情報は要配慮個人情報にあたるため、本人の同意なく派遣元と派遣先で共有することはできません。良かれと思って情報を共有した結果、プライバシー侵害にあたる可能性があります。
【予防策】
情報共有は、必ず本人の明確な同意を得てから行います。誰に、どの情報を、何のために提供するのかを本人に丁寧に説明し、書面で同意を得るプロセスを徹底することが重要です。
トラブル3:「費用はすべて派遣元が負担すべき」という誤解
ストレスチェックの基本的な実施費用は派遣元が負担しますが、追加的な対応の費用は、両社間の協議によって分担を決めるのが一般的です。例えば、派遣先が独自に派遣社員を含めた集団分析を行いたい場合や、特別な職場環境改善コンサルティングを導入する場合の費用などが該当します。
【予防策】
派遣社員のストレスチェックに関連して発生しうる費用項目をリストアップし、それぞれの費用負担者を契約時に明確に定めておくことが、金銭的なトラブルの防止につながります。
複雑な連携は専門家へ相談を|産業保健サービスの活用

派遣元と派遣先の複雑な連携や法令遵守に不安がある場合は、産業保健の専門サービスを活用することが有効な解決策となります。専門家の知見を借りることで、担当者の負担を減らし、より質の高い産業保健体制を構築できます。
産業医や代行サービスにストレスチェック関連業務を委託するメリット
専門サービスに委託することで、法令に準拠した適切な実施体制を構築し、人事担当者の業務負担を軽減できます。専門サービス活用のメリットは、下記のとおりです。
- 法令遵守の徹底: 複雑な法令や指針に沿った制度設計と運用が可能になる。
- 専門家による質の高い対応: 医師や保健師など専門職による面接指導や助言が受けられる。
- 担当者の負担軽減: 計画策定から実施、報告まで煩雑な事務作業を委託できる。
- 中立的な立場からの助言: 派遣元・派遣先のどちらにも偏らない客観的なサポートが期待できる。
Medpartnerなら医師面接指導まで一気通貫でサポート可能
Medpartnerは、ストレスチェックの実施から高ストレス者への医師面接指導まで、一気通貫でのサポートを提供しています。代表が現役の産業医であり、全国の医師コミュニティを基盤としているため、質の高い産業保健サービスを全国の事業所へお届けできます。
ストレスチェックの実施はもちろん、多くの企業が課題と感じる「高ストレス者が出た際の医師面接の担い手探し」まで、まとめてお任せいただけます。既存の産業医や保健師との連携も可能で、事務作業のみの部分的な委託にも柔軟に対応します。
派遣社員のストレスチェック対応は、役割分担の整理や関係各所との連携など、人事・労務担当者の負担が大きい業務の一つです。何から手をつければよいかわからない、専門的な判断に迷うといった場合は、ぜひ一度Medpartnerにご相談ください。
まとめ
派遣社員のストレスチェックは、原則として派遣元に実施義務がありますが、派遣先も安全配慮義務に基づき協力する責任を負います。高ストレス者への面接指導や集団分析を円滑に進めるには、両社が事前に役割分担や費用負担について取り決め、緊密に連携することが不可欠です。
派遣元・派遣先との複雑な連携や実務対応に不安があり、担当者の負担を軽減したい場合は、ストレスチェックの計画から医師面接指導まで一気通貫で支援するMedpartnerへぜひご相談ください。

