産業医と、必要なときだけ単発で契約できるのか。結論から書くと、労働安全衛生法・同法施行令・同規則には「スポット契約」という区分はなく、必要なときだけ依頼する契約の呼び方として使われる言葉です。従業員50人未満の事業場には産業医の選任義務がないため、場面を絞って医師に依頼する形を検討できます。
一方、選任義務のある50人以上の事業場では、産業医に少なくとも月1回(一定の条件を満たすときは2か月に1回)の巡視などの職務があり、契約の内容がそれを行える形になっていなければなりません。
この記事では、50人未満の中小企業の経営者・人事・総務担当者に向けて、スポット契約と月次の継続契約の違い、スポットで頼める場面と足りない場面、検討するときの考え方を、法令などで確認できた範囲で整理します。
・スポット契約と月次の継続契約の違い
・50人以上・50人未満での、スポット契約の位置づけ
・スポット契約で頼める場面と、足りない場面
・50人未満の会社が検討するときの考え方
・相談先を探すときの確認点
産業医の「スポット契約」とは?月次の継続契約との違い

産業医のスポット契約とは、必要が生じたときだけ、内容を決めて単発で医師に依頼する契約のことです。この記事では、この意味で「スポット契約」と呼びます。
ここでは、法令に「スポット契約」という区分がないことを確認したうえで、毎月など定期的に訪問する月次の継続契約との違いを、依頼の単位や頼める場面などの項目で整理します。
法令に「スポット契約」という区分はない(この記事での呼び方)
労働安全衛生法・同法施行令・同規則の条文に、「スポット契約」という語や区分は出てきません(労働安全衛生法、同法施行令、同規則をe-Gov法令検索で確認)。法令が定めているのは、次の2点です。
- 常時50人以上の労働者を使用する事業場は、産業医を選任する(労働安全衛生法第13条第1項、同法施行令第5条)
- 50人未満の事業場は、医師または保健師に労働者の健康管理等の全部または一部を行わせるよう努める(努力義務。労働安全衛生法第13条の2、労働安全衛生規則第15条の2)
努力義務は「全部または一部」とされているため、健康管理の一部だけを医師に行わせる形も、この範囲に含まれます。「スポット」で何を、何回、いつまでに依頼できるかに法令上の決まりはなく、依頼先との契約の内容で決まります。
スポット契約と月次の継続契約の違い
月次の継続契約とは、毎月など定期的に訪問し、決めた業務を継続して行う契約です(嘱託産業医など)。2つの違いを整理すると、次のとおりです。
| 項目 | スポット契約 | 月次の継続契約 |
|---|---|---|
| 依頼の単位 | 必要が生じたときに、内容を決めて単発で依頼する | 毎月など定期的に、決めた業務を継続して依頼する |
| 法令上の位置づけ | 区分はない | 区分はない(産業医を選任する事業場は、巡視などの職務を行える内容の契約が必要) |
| 頼める場面 | 意見聴取や面接指導など、必要が生じた場面(後述) | 巡視や衛生委員会への関与など、継続的な職務を含む |
| 契約前に確認すること | 依頼できる内容、依頼から実施までの期間 | 訪問頻度、職務の範囲 |
非常勤(嘱託)産業医の選び方と契約の確認点については、以下の記事で解説しています。
>>非常勤産業医の選び方と契約|『名ばかり産業医』にしない9つの確認点
50人以上か50人未満かで、スポット契約の位置づけは変わる
スポット契約の位置づけは、事業場の規模によって変わります。常時50人以上の事業場には産業医の選任義務があり、その職務には月次の巡視などが含まれます。50人未満の事業場に選任義務はありませんが、健康診断後の医師の意見聴取など、医師が関わる場面はあります。
50人以上:産業医の選任義務があり、職務は月次の巡視などを含む
常時50人以上の労働者を使用する事業場は、産業医を選任します(労働安全衛生法第13条第1項、同法施行令第5条)。選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告します(労働安全衛生規則第13条第1項・第2項)。
選任した産業医には、次の職務や関わりが定められています。
- 健康診断、面接指導、ストレスチェックとその面接指導、健康相談などに関すること(労働安全衛生規則第14条第1項)
- 少なくとも毎月1回の作業場等の巡視。事業者が所定の情報を毎月1回以上産業医に提供し、産業医が事業者の同意を得ているときは、少なくとも2か月に1回(同規則第15条)
- 衛生委員会の委員に産業医が含まれる(労働安全衛生法第18条第2項第3号)。衛生委員会は毎月1回以上開催する(同規則第23条第1項)
- 事業者は、産業医に労働時間に関する情報などを提供する(労働安全衛生法第13条第4項、同規則第14条の2)
巡視は、選任された産業医が行うものとして労働安全衛生規則第15条に定められています(少なくとも毎月1回。条件を満たすときは2か月に1回)。契約の内容が、こうした職務を行える形になっているかを確認してください。必要が生じたときだけ依頼する形では、定期的な巡視は行えない内容になりやすい点に注意してください。判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署に確認します。
選任義務の詳細と、50人以上の義務の全体像については、以下の記事で解説しています。
>>産業医の選任義務とは?50名以上の罰則・費用・探し方を解説
>>従業員50人以上の義務とは?産業医選任からストレスチェックまで解説
50人未満:選任義務はないが、医師が関わる場面はある
常時使用する労働者が50人未満の事業場に、産業医の選任義務はありません(労働安全衛生法施行令第5条)。ただし、次の2つは、規模にかかわらず会社に求められます。
- 努力義務:医師または保健師に、労働者の健康管理等の全部または一部を行わせるよう努める(労働安全衛生法第13条の2)。国が行う相談などの援助の利用にも努めることとされています(労働安全衛生規則第15条の2第2項)
- 義務:健康診断後の医師の意見聴取(労働安全衛生法第66条の4)と、長時間労働者への医師による面接指導(同法第66条の8)
50人未満の選任義務の有無と、会社がやること全般については、以下の記事で解説しています。
>>産業医は50人未満でも必要?選任義務の有無と、会社がやるべきことを解説
スポット契約で頼める場面(確認できたもの)

法令や厚生労働省の手引きで医師の関与が示されている場面のうち、必要が生じたときに依頼する形を検討しやすいのは、次の4つです。ここでは、一次情報で確認できた場面だけを挙げます。実際に依頼できるかどうかは、依頼先と結ぶ契約の内容で決まります。
健康診断後の医師の意見聴取
- 対象:健康診断で異常の所見があった労働者。健康を保持するために必要な措置について、医師または歯科医師の意見を聴く(労働安全衛生法第66条の4)
- 期限:健康診断が行われた日から3か月以内。聴いた意見は、健康診断個人票に記載する(労働安全衛生規則第51条の2第1項)
- 会社の役割:医師から労働者の業務に関する情報を求められたら、速やかに提供する(同条第3項)
- 意見を聴く相手は「医師又は歯科医師」で、産業医に限られません
意見を聴いたあと、その意見を勘案して必要があると認めるときに措置を講じるのは、事業者(会社)です(労働安全衛生法第66条の5第1項)。意見書の位置づけや効力と、健診後の対応の全体像については、以下の記事で解説しています。
>>産業医の意見書とは?効力や診断書との違い、対応フローまで解説
>>健康診断の事後措置とは?担当者がすべき手順と法的義務を解説
長時間労働者への面接指導
- 対象:休憩時間を除き1週間あたり40時間を超えた労働時間が1か月で80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者が申し出たとき(労働安全衛生規則第52条の2第1項・第52条の3第1項)
- 会社の役割:申出があったときは、遅滞なく医師による面接指導を行う(同規則第52条の3第3項、労働安全衛生法第66条の8第1項)
- 面接指導のあと、結果に基づく医師の意見を聴き、必要があると認めるときは就業場所の変更や労働時間の短縮などの措置を講じる(同法第66条の8第4項・第5項)
- 面接指導は「医師による」と定められており、産業医に限られません。労働者数50人未満の事業場にも適用されています(労働者健康安全機構「地域窓口(地域産業保健センター)」)
面接指導の義務と手順については、以下の記事で解説しています。
>>産業医面談の残業時間基準|月80時間超の義務と罰則、手順を解説
休職・復職に関する意見
厚生労働省の心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(法令ではなく国の手引きです)は、復職の各段階で、産業医等の次の役割を示しています。
- 診断書の内容だけでは不十分な場合、産業医等が、労働者の同意を得たうえで、主治医から必要な情報や意見を集める
- 最終的な職場復帰の決定の前に、産業医等が「職場復帰に関する意見書」等を作成する
- 最終的な職場復帰の決定は、事業者が行う
産業医が選任されていない50人未満の事業場については、人事労務管理スタッフ、管理監督者、衛生推進者または安全衛生推進者が、主治医や地域産業保健センターなどの事業場外の機関を活用しながら判断する、と示されています。手引きが「産業医等」の役割としている内容を、外部の医師にどこまで依頼できるかは、契約の内容によります。
復職の判定の進め方と、産業医が復職を認めないときの対応については、以下の記事で解説しています。
>>復職判定の進め方|会社が確認する項目と判定シートの作り方
>>産業医が復職を認めないとき|会社がやる5ステップと本人への伝え方
産業保健の相談
- 健康教育や健康相談など、労働者の健康の保持増進を図るための措置は、産業医の職務に含まれる(労働安全衛生規則第14条第1項第7号)
- 産業医を選任していない50人未満の事業場でも、医師または保健師に、労働者の健康管理等の一部を行わせるよう努める(労働安全衛生法第13条の2)
- 事業者は、産業医などが労働者からの健康相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備などに努める(同法第13条の3)
健康相談は、労働者の健康管理等の一部です。そのため、必要なときに医師へ相談する形も、50人未満の事業場の努力義務の範囲で考えられます。
スポット契約では足りない場面・任せられないこと
スポット契約で依頼できる場面がある一方で、それだけでは足りない場面や、医師に任せられないこともあります。ここでは、継続的な関与が前提になっている職務、措置や最終判断は会社が行うこと、期限のある依頼は依頼先を先に決めておくことの3点を整理します。
継続的な関与が前提になっている職務
産業医を選任する事業場に定められている、次のような職務や運営は、必要が生じたときだけ依頼する契約では行えない内容になりやすいものです。
- 定期的な巡視:少なくとも毎月1回。条件を満たす場合は2か月に1回(労働安全衛生規則第15条)
- 衛生委員会:委員に産業医が含まれ(労働安全衛生法第18条第2項第3号)、毎月1回以上開催する(同規則第23条第1項)
これらは、常時50人以上の事業場で産業医を選任しているときの話です。50人未満の事業場に、この巡視などを行う法令上の義務はありません。
措置や最終判断は会社が行う
医師に意見を求めても、それを受けて何を決め、何を実施するかは会社の役割です。
- 健診後:医師の意見を勘案し、必要があると認めるときに、就業場所の変更や労働時間の短縮などの措置を講じる(労働安全衛生法第66条の5第1項)
- 面接指導後:医師の意見を勘案し、必要があると認めるときに、措置を講じる(同法第66条の8第5項)
- 復職:最終的な職場復帰の決定は、事業者が行う(厚生労働省の手引き)
意見を聴いて終わりにせず、会社が判断して必要な措置を講じるところまでが、会社の役割です。
期限のある依頼は、依頼先を先に決めておく
意見聴取や面接指導には、次の期限や時期の定めがあります。
- 健診後の意見聴取:健康診断が行われた日から3か月以内(労働安全衛生規則第51条の2第1項)
- 面接指導:労働者から申出があったとき、遅滞なく実施(同規則第52条の3第3項)
- 医師から求められた業務に関する情報:速やかに提供(同規則第51条の2第3項)
必要になってから依頼先を探し始めると、期限に間に合わないおそれがあります。あらかじめ、依頼先と、依頼の方法や対応できる時期を確認しておくと、慌てずに済みます。
50人未満の会社がスポット契約を検討するときの考え方
スポット契約と月次の継続契約のどちらが合うかは、会社の状況によって変わります。「スポットで足りる」「継続契約が必要」と一律には言えません。次の3点を順に確認します。
まず公的窓口で足りるかを確認する
地域産業保健センター(通称「地さんぽ」)は、労働者数50人未満の事業場の事業者・労働者を対象に、次のような産業保健サービスを原則として無料で提供しています(労働者健康安全機構「地域窓口(地域産業保健センター)」)。
- 長時間労働者への医師による面接指導の相談
- 健康相談窓口:医師や保健師が、健診結果に基づく健康管理、メンタルヘルスなどの相談に応じる
- 個別訪問による産業保健指導:医師等が事業場を訪問し、健診結果に基づく指導・助言などを行う
利用には、地域産業保健センターへの事前の申し込みが必要です(こころの耳「地域産業保健センター(地さんぽ)」)。都道府県の産業保健総合支援センターも、メンタルヘルス対策の相談対応などを無料で提供しています(厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」)。
公的窓口で対応できる内容や日程で足りない部分があるときに、外部の医師への依頼を考えます。公的窓口の詳細については、以下の記事でも解説しています。
>>産業医は50人未満でも必要?選任義務の有無と、会社がやるべきことを解説
契約前に確認したい項目
外部の医師にスポットで依頼する場合は、次の点を契約前に確認します。
- 依頼できる内容:意見聴取、面接指導、復職に関する意見、相談のうち、どれを依頼できるか
- 依頼から実施までの期間:健診後3か月以内、面接指導は申出後遅滞なく、という期限に間に合うか
- 意見の受け取り方:聴いた意見を健康診断個人票に記載する必要があるため、書面などで受け取れるか
- 面談の方法:訪問かオンラインか
- 従業員の健康情報の扱い:誰が受け取り、どこに保管するか
- 費用:何にいくらかかるかを、見積もりで確認する
契約書に記載する項目の考え方については、以下の記事が参考になります。
>>産業医の契約書の書き方|必須8項目とトラブル対策を解説
依頼の範囲を書面で確認するという点は、スポット契約でも同じです。
50人に近づいたときの考え方
従業員が増えて常時50人以上になると、産業医の選任義務が生じます。選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任します(労働安全衛生規則第13条第1項)。それまでスポットで運用していた場合も、その時点で、巡視などの職務を行える契約が必要になります。
50人に近づいている会社は、早めに依頼先の情報を集めておくと慌てずに済みます。
スポット契約の相談先を探すときに
スポット契約の依頼先を探すときに参考になる情報をまとめました。依頼先の種類やサービスを比較するときの観点を扱った記事と、Medpartnerのスポット契約への対応状況を紹介します。
依頼先の探し方と比較は別記事で解説
依頼先の種類や、サービスを比較するときの観点は、次の記事で解説しています。
- 依頼先の種類(産業医事務所、紹介会社、医師会など)の違い:産業医事務所とは?紹介会社・医師会など依頼先4系統との違いを比較
- サービスを比較するときのポイント:産業医サービス比較5つのポイント|失敗しない選び方を解説
- 中小企業の産業医の選び方:中小企業の産業医選び方|選任義務から健康経営の進め方まで
Medpartnerのスポット契約への対応
Medpartnerは、産業医のスポット契約(単発・必要なときだけの依頼)に対応しています。選任義務のある事業場が、選任から月次の運用まで外部に任せる場合は、産業医の選任から運用までの委託も用意しています。

まとめ
- 「スポット契約」は法令上の区分ではなく、必要が生じたときだけ単発で医師に依頼する契約の呼び方です
- 常時50人以上の事業場は産業医の選任義務があり、契約の内容が巡視などの職務を行える形になっている必要があります
- 50人未満の事業場は選任義務がなく、健診後の意見聴取や面接指導などの場面で、必要に応じて医師に依頼できます(依頼できる内容は契約次第です)
- 医師の意見を受けて措置を決めるのは会社です。3か月以内などの期限があるため、依頼先は先に決めておくと安心です
次の3つから始めてください。
- 自社の事業場の人数を確認する(50人以上か、50人未満か)
- 依頼したい場面(意見聴取・面接指導・復職に関する意見・相談)と、その期限を書き出す
- 地域産業保健センターで足りるかを確認し、足りない部分を外部の医師に相談する
どちらの契約形態が合うかは、会社の状況によって変わります。


