本記事では、専属産業医の選任義務が生じる2つの要件と、嘱託産業医との違いをわかりやすく解説します。「自社も専属産業医を置くべき?」「嘱託産業医との違いは?」といった疑問をお持ちの人事担当者の方もいるかもしれません。
この記事を読めば、自社に専属産業医が必要か判断でき、ほとんどの企業は嘱託産業医の選任で法的要件を満たせることがわかります。産業保健・健康経営支援の専門家として、法令に基づいた正確な情報をお届けしますので、自社に合った産業医選びの第一歩としてご活用ください。
より具体的な産業医の選任や運用でお悩みの場合は、お気軽にご相談いただけます。
専属産業医とは?まず知るべき選任義務が生じる2つの要件

専属産業医とは、特定の事業場に常勤する産業医のことを指します。すべての企業に選任義務があるわけではなく、その義務は事業場の規模や業務内容によって定められています。自社に専属産業医が必要かどうかを判断するためには、まず法律で定められた2つの要件を正しく理解することが重要です。
多くの場合、後述する「嘱託産業医」の選任で法的要件を満たせると考えられています。
要件1:常時1,000人以上の労働者を使用する事業場
常時1,000人以上の労働者を使用する事業場では、専属産業医を1名選任する義務があります。この要件は、労働安全衛生規則第13条1項2号で定められています ※。
事業場の規模が大きくなるにつれて、従業員の健康管理や安全配慮の必要性が高まるため、専門家である産業医が常駐する体制が求められるのです。自社の従業員数がこの規模に該当するかどうかが、最初の確認点といえます。
要件2:特定の有害業務に常時500人以上を従事させる事業場
特定の有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場も、専属産業医の選任が必要です。これは、労働者の健康に特に大きな影響をおよぼす可能性がある業務への配慮を目的としています。
該当する有害業務は、深夜業や放射線業務、化学物質を取り扱う業務など、厚生労働省令で細かく定められています。自社の業務内容がこれらの有害業務に該当し、かつ従事者数が500人以上いる場合は、専属産業医を選任する義務が生じる可能性があります。
【簡単3STEP】自社が専属産業医の選任義務に該当するか確認する手順
自社に専属産業医の選任義務があるかどうかは、簡単な3つのステップで確認できます。人事・労務担当者の方は、以下の手順に沿って自社の状況を整理してみましょう。
下記にその手順を整理します。
- 事業場ごとの労働者数を正確に把握する:まずは本社、支社、工場など、事業場ごとに常時使用している労働者の人数を確認します。
- 有害業務の有無と従事者数を確認する:自社で行っている業務の中に、法令で定められた有害業務があるかを確認し、該当する場合はその業務に従事する労働者数を把握します。
- 2つの選任義務要件と照らし合わせる:ステップ1と2で確認した数字を、前述した「労働者1,000人以上」または「有害業務従事者500人以上」という要件と照らし合わせ、該当するかどうかを判断します。
【一覧比較】専属産業医と嘱託産業医の5つの違い

専属産業医と嘱託産業医の主な違いは、勤務形態や企業への関与の深さなど、5つの点に整理できます。専属産業医の選任義務がない多くの企業にとっては、嘱託産業医が現実的な選択肢となります。両者の違いを理解し、自社にとってどちらの形態が適しているかを考えることが大切です。
両者の違いを下表にまとめました。
| 項目 | 専属産業医 | 嘱託産業医 |
|---|---|---|
| 勤務形態 | 事業場に常勤する(週3〜5日程度が目安) | 非常勤で月に1〜数回訪問する |
| 関与の深さ | 企業の一員として産業保健活動全般に深く関与する | 契約に基づき、職場巡視や面談など特定の業務を担う |
| 職場理解度 | 日々職場にいるため、文化や人間関係まで深く理解しやすい | 定期的な訪問を通じて、徐々に理解を深めていく |
| 報酬・費用 | 常勤雇用に準じるため、一般的に年俸制で高額になる | 訪問回数や業務内容に応じた顧問料形式が中心 |
| 探しやすさ | 候補者となる医師が少なく、マッチングの難易度は高い | 産業医紹介会社などを通じて比較的探しやすい |
違い1:勤務形態(常勤か非常勤か)
専属産業医と嘱託産業医の最も大きな違いは、常勤か非常勤かという勤務形態です。専属産業医は、企業の社員と同じように週3〜5日程度事業場に勤務するのが一般的とされています。
一方、嘱託産業医は非常勤であり、月に1回から数回、決められた日時に事業場を訪問して職務を遂行します。
違い2:関与の深さ(職場への滞在時間と役割)
勤務形態の違いから、専属産業医は嘱託産業医よりも企業への関与が深くなる傾向があります。滞在時間が長いため、産業保健に関する計画の立案から実行まで、主体的に関与することが可能です。
嘱託産業医は限られた時間の中で、職場巡視や衛生委員会への出席、従業員面談といった契約範囲の業務を的確に行う役割を担います。
違い3:職場や従業員への理解度
専属産業医は社内に常駐するため、職場環境や業務内容、従業員の特性を深く理解しやすいといえます。日々のコミュニケーションを通じて、企業の文化や人間関係といった側面まで把握できるため、より実態に即した健康支援が期待できるでしょう。
嘱託産業医も訪問を重ねることで理解を深めますが、そのためには企業側からの情報提供や連携が重要になります。
違い4:報酬・費用の考え方
報酬体系は、専属産業医が年俸制、嘱託産業医が顧問料形式であることが一般的です。専属産業医は常勤の医師を雇用する形に近いため、人件費は高額になる傾向があります。
嘱託産業医の費用は、月々の訪問回数や従業員数、依頼する業務内容によって変動するのが通例とされています。
違い5:探しやすさと選任の難易度
専属で勤務できる医師は限られているため、嘱託産業医に比べて候補者探しは難しくなります。特に専門性や経験、人柄など、自社の希望に合う人材を見つけるには時間がかかる可能性があります。
嘱託産業医は、多くの医師が他の医療機関と兼務で活動しており、産業医紹介会社などを通じて比較的探しやすいといえるでしょう。
ほとんどの企業は「嘱託産業医」の選任で法的要件を満たせます

従業員数が1,000人未満で、特定の有害業務がない事業場であれば、嘱託産業医の選任で法的な要件は満たせます。この記事を読んでいる人事担当者の方の多くは、専属産業医ではなく、嘱託産業医の選任を検討する段階にあると考えられます。
自社に必要なのはどちらかを正しく見極め、過剰なコストや労力をかけないようにすることが大切です。
従業員50名以上の事業場は、まず嘱託産業医の選任を検討しましょう
常時50人以上の労働者を使用する事業場は、産業医を選任する義務があります。この場合、専属産業医の選任義務に該当しない限りは、嘱託産業医を1名選任すれば法令の要件を満たせます。したがって、従業員が50名を超えた事業場のご担当者様は、まず信頼できる嘱託産業医を探し始めることが現実的な第一歩です。
嘱託産業医の具体的な選び方・契約方法は関連記事で解説
嘱託産業医を具体的にどう選ぶか、契約するかの詳細は、関連記事で詳しく解説しています。自社に合った産業医を見つけ、「名ばかり産業医」にしないためには、いくつかの重要な確認点があります。
産業医の専門性やコミュニケーション能力、紹介会社の実績など、選定時に着目すべきポイントを整理することが、失敗しないための鍵です。
法的義務はないが、あえて専属産業医を置く場合のメリット・デメリット

法的義務がない企業が専属産業医を置くことには、健康経営を推進する上でのメリットと、コスト面のデメリットがあります。近年、従業員の健康を重要な経営資源と捉え、戦略的に投資する「健康経営」への関心が高まっています。
その文脈において、義務の有無にかかわらず、専属産業医の設置を検討する企業も存在します。
メリット1:企業文化に根ざした産業保健活動を推進できる
専属産業医は、企業の文化や価値観を深く理解し、それに合わせた産業保健活動を計画・実行できます。社内の一員として経営層や従業員と日常的に関わることで、表面的な課題だけでなく、組織の風土に根ざした本質的な健康課題の解決に取り組める可能性があります。
長期的な視点で、自社独自の健康文化を醸成する上での中心的な役割が期待できるでしょう。
メリット2:従業員との信頼関係を築きやすく、相談しやすい環境が作れる
社内に常駐する専属産業医は従業員にとって身近な存在となり、信頼関係を築きやすくなります。顔が見える関係性があることで、従業員は心身の不調について気軽に相談しやすくなるでしょう。
こうした相談しやすい環境は、メンタルヘルス不調の早期発見や、問題が深刻化する前の介入につながる重要な要素といえます。
メリット3:経営層への迅速かつ的確なフィードバックが期待できる
専属産業医は、職場巡視や従業員面談を通じて得られた健康情報を分析し、経営層へ直接かつ迅速にフィードバックできます。健康診断の結果やストレスチェックの集団分析から見えてくる組織の課題を、経営的な視点から報告し、改善策を提言することが可能です。
これにより、健康情報を経営戦略に活かす「健康経営」をより効果的に推進する力となります。
デメリット:コスト負担が大きく、候補者探しも難しい
専属産業医を置く際の最大のデメリットは、高額な人件費と、適した人材を見つけることの難しさです。常勤の医師を雇用するためには、相応の報酬が必要となり、企業の財務的な負担は小さくありません。
産業医としての経験が豊富で、自社の文化に合う専属医の候補者は限られており、採用活動が長期化する可能性も考慮しておく必要があります。
専属産業医の探し方から契約まで|基本の5ステップ

専属産業医を探し、契約するまでの流れは、大きく5つのステップで進めるのが一般的です。嘱託産業医を探す場合と基本的な流れは共通しますが、専属産業医の場合はより深く自社との相性を見極めることが重要になります。
以下のステップを参考に、計画的に選任活動を進めましょう。
- 社内での役割やミッションを定義する
- 依頼先(紹介会社・医師会など)を選定する
- 候補者と面談し、自社との相性を見極める
- 契約内容を双方で確認・合意する
- 選任報告書を管轄の労働基準監督署へ提出する
ステップ1:社内での役割やミッションを定義する
まず初めに、自社が専属産業医にどのような役割を期待するのか、ミッションを明確に定義します。例えば、メンタルヘルス対策の強化、健康経営の推進、特定の健康課題の解決など、具体的な目的を設定することが大切です。
これにより、求める産業医の専門分野や経験、人物像が明確になり、後のミスマッチを防ぐことにつながります。
ステップ2:依頼先(紹介会社・医師会など)を選定する
次に、定義した要件に合う医師を見つけるため、産業医紹介会社や地域の医師会などの依頼先を選びます。産業医紹介会社は全国的なネットワークを持ち、多くの候補者の中から探せる利点があります。地域の医師会は、地元の医療事情に詳しい医師を紹介してもらえる可能性があると考えられています。
それぞれの特徴を理解し、自社の方針に合った依頼先を選定することが重要です。
ステップ3:候補者と面談し、自社との相性を見極める
紹介された候補者とは必ず面談を行い、スキルや経験だけでなく、自社の文化との相性を見極めます。面談には人事担当者だけでなく、可能であれば経営層や現場の責任者も同席するのが望ましいです。
ステップ1で定義したミッションを伝え、候補者の産業保健に対する考え方やコミュニケーションスタイルを確認し、信頼して連携できるパートナーかどうかを判断します。
ステップ4:契約内容を双方で確認・合意する
契約前には、勤務日数や時間、業務範囲、報酬、報告体制などの条件を盛り込んだ契約書を作成し、双方で確認・合意します。特に専属産業医の場合、関与する業務が多岐にわたる可能性があるため、役割と責任の範囲を明確にしておくことが重要です。
口約束ではなく、書面で具体的に定めることで、後の認識の齟齬やトラブルを防ぐことができます。
ステップ5:選任報告書を管轄の労働基準監督署へ提出する
産業医を選任したら、選任すべき事由が発生した日から14日以内に、事業場を管轄する労働基準監督署長に選任報告書を提出する必要があります。
この手続きは法令で定められた義務であり、怠ると罰則の対象となる可能性があります。必要な書類を準備し、期限内に忘れずに提出しましょう。
産業医選任で失敗しないために依頼先を選ぶ4つの確認点

自社に合った産業医を選任するためには、依頼先となる紹介会社などを選ぶ際に4つの点を確認することが重要です。産業医の選任は、単に法律要件を満たすだけでなく、従業員の健康を守り、企業の成長につなげるための重要な一手です。信頼できるパートナーを見つけるために、サービス内容をしっかり比較検討しましょう。
産業医の選任やその後の運用に不安がある場合、専門的なノウハウを持つサービスに相談するのも一つの方法です。自社の状況に合わせたサポート内容かを確認し、安心して任せられるパートナーを見つけましょう。

1. 全国の事業所に対応できる医師ネットワークがあるか
複数の拠点を持つ企業の場合は、全国の事業所に産業医を派遣できるネットワークを持つ依頼先かを確認します。拠点ごとに個別に産業医を探すのは、人事担当者にとって大きな負担となります。
全国規模で一括して相談できる依頼先であれば、各事業所の状況に合わせた最適な産業医を効率的に選任することが可能です。
2. メンタルヘルス対応のため精神科・心療内科の医師も紹介可能か
現代の職場ではメンタルヘルス対策が重要であり、精神科や心療内科を専門とする医師を紹介できるかがポイントです。ストレスチェック後の高ストレス者面談や、休職・復職の判断など、専門的な知見が求められる場面は少なくありません。
精神科領域の専門医と連携できる体制がある依頼先は、より手厚いサポートが期待できます。
3. 選任後の月次運用(職場巡視や委員会出席)までサポートしてくれるか
産業医を選任するだけでなく、その後の職場巡視や衛生委員会への出席といった月次運用まで支援してくれるかを確認しましょう。産業医の活動を実効性のあるものにするためには、定期的な活動の計画や報告、関係者との連携が不可欠です。
選任して終わりではなく、産業保健活動が円滑に進むよう伴走してくれるパートナーを選ぶことが重要です。
4. 既存の産業保健体制と柔軟に連携できるか(部分的な業務委託など)
すでに産業医や保健師がいる場合、既存の体制と連携し、必要な業務だけを委託できる柔軟性があるかも重要です。例えば、現在の産業医はそのままに、ストレスチェックの運用だけを任せたい、あるいは事務的な作業を委託したいといったニーズもあるでしょう。
自社の状況に合わせてサービスを組み合わせられる依頼先であれば、無駄なく必要なサポートを受けられます。
専属産業医に関するよくある質問
ここでは、専属産業医に関して人事担当者の方からよく寄せられる質問にお答えします。制度の細かな点や、いざという時の対応について、疑問を解消しておきましょう。
Q. 専属産業医の「名ばかり」はあり得ますか?
A. 専属産業医は事業場に常勤するため、職務を全く行わない「名ばかり」の状態は考えにくいです。しかし、産業医に期待する役割が明確でなかったり、企業との相性が合わなかったりする場合、活動が形式的なものにとどまってしまう可能性はあります。選任前の面談でミッションを共有し、相性を見極めることが重要です。
Q. 専属産業医が見つからない場合はどうすればよいですか?
A. 専属産業医の選任義務があるにも関わらず見つからない場合、まずは管轄の労働基準監督署に相談することが推奨されます。その上で、複数の産業医紹介会社に依頼したり、求める経験やスキルの要件を広げて再度探したりするなど、企業側でできる対策も考えられます。採用が難航している状況を率直に伝え、指導を仰ぐことが大切です。
Q. 職場巡視の頻度は法律で決まっていますか?
A. はい、産業医による職場巡視は、労働安全衛生規則により原則として「少なくとも毎月1回」実施することが定められています ※。ただし、事業者から産業医に対し、所定の情報を毎月提供し、事業者の同意がある場合には、職場巡視の頻度を「少なくとも2か月に1回」とすることが可能です。
専属産業医の選任は、一部の大規模事業場などに課された義務であり、多くの企業にとっては嘱託産業医の選任が現実的な選択肢となります。自社の状況を正しく把握し、法律の要件を満たした上で、従業員の健康を守るための最適な体制を築くことが重要です。
自社に合った産業保健体制の構築や、健康経営の推進についてお悩みの場合は、専門的な知見を持つパートナーのサポートが有効です。産業医の選任から日々の運用まで、まずはお気軽にご相談ください。

まとめ
専属産業医の選任は、従業員1,000人以上の事業場など特定の要件を満たす場合に義務付けられ、ほとんどの企業は嘱託産業医で法的要件を満たせます。専属産業医と嘱託産業医では勤務形態や企業への関与の深さが異なるため、それぞれの違いを理解し、自社の状況に合った産業医を選任することが重要です。
従業員が50名を超え、自社にどのような産業保健体制が必要かお悩みの場合は、専門家がサポートいたしますので、まずはお気軽にご相談ください。

