「健康経営の取り組みを始めたいけれど、費用がネック…」「使える助成金や補助金はないだろうか?」 従業員の健康を守り、生産性を高める健康経営は、企業にとって重要な投資です。しかし、特に中小企業にとっては、その費用が大きな負担になることも少なくありません。
インターネットで「健康経営 助成金」と検索すると、さまざまな情報が見つかります。しかし、その中には古かったり、誤解を招く情報が含まれていたりすることも事実です。
この記事では、産業保健と健康経営の両方を支援する立場から、健康経営に関する助成金の「いま」を正確にお伝えします。助成金に頼らない、コストを抑えた健康経営の進め方もあわせて解説しますので、ぜひご一読ください。
- 健康経営に使える国の助成金が「ほぼ無い」という事実
- 2026年8月時点で申請の可能性がある、数少ない国の制度
- 自治体の優遇制度の多くが「給付」ではなく「融資」であること
- 助成金に頼らず、コストを抑えて健康経営を推進する具体的な視点
【結論】健康経営の助成金は「ほぼ無い」のが正しい理解です

健康経営に使える助成金は、残念ながら「ほぼ無い」のが現状です。多くの経営者や人事担当者の方が助成金の活用を期待されていますが、まずはこの事実を正確に理解することが重要といえます。
安易に「使える」とうたう情報には注意が必要であり、正しい知識をもとに計画を立てることが、結果的に時間と労力の無駄を防ぐことにつながります。
まず知るべき事実:企業が直接使える国の助成金は令和5年(2023年)に廃止されました
企業が直接申請できた健康経営関連の国の助成金は、令和5年(2023年)1月28日に7件の廃止が公表され、いずれも現在は申請できません。現在、インターネット上にはこれらの廃止された制度を「使える」かのように紹介している古い情報も散見されるため、注意が必要です。
廃止が公表され、現在は存在しない助成金は次のとおりです。
- 小規模事業場産業医活動助成金
- ストレスチェック助成金
- 職場環境改善計画助成金
- 心の健康づくり計画助成金
- 治療と仕事の両立支援助成金
- 副業・兼業労働者の健康診断助成金
- 事業場における労働者の健康保持増進計画助成金
これらの制度はすでに存在しないため、申請はできません。制度名で検索して解説記事が見つかっても、それが廃止前に書かれたものである可能性を疑い、公的機関の最新情報を確認することが大切です。
よくある誤解①:「健康経営優良法人=助成金」ではない
「健康経営優良法人」は、あくまで経済産業省が設計した認定制度です。この認定を取得したからといって、国から直接、助成金や補助金が給付されるわけではありません。認定は、企業の健康経営への取り組みを客観的に評価し、社会的な信頼性を高めるためのものです。
健康経営優良法人の認定を受けるメリットには、以下のようなものが挙げられます。
- 企業のイメージアップやブランド価値の向上
- 採用活動における競争力の強化
- 従業員のエンゲージメントや定着率の向上
- 自治体や金融機関によるインセンティブ(後述)
認定そのものが金銭的な支援ではない、という点を理解しておくことが重要です。
よくある誤解②:自治体の制度は給付金ではなく「融資優遇」が中心
自治体によっては、健康経営に取り組む企業を支援する制度を設けています。しかし、これらの多くは返済不要の「給付金」や「補助金」ではありません。主な支援内容は、事業資金の「融資」における金利の優遇や、信用保証料の割引です。
つまり、事業資金を借り入れる際の条件が有利になるというもので、借りたお金は返済する必要があります。企業の資金繰りを助ける意味ではメリットがありますが、取り組みにかかる費用が直接補填されるわけではない、という点は大きな違いです。
【2026年8月時点】国の制度は2つだけ|それぞれの現状と注意点

企業が直接申請できた助成金の多くが廃止された一方で、現在も利用できる国の制度は存在します。ただし、対象や要件が非常に限定的であるため、多くの企業にとっては活用が難しいのが実情です。ここでは、現存する2つの制度の現状と注意点を解説します。
制度1:団体経由産業保健活動推進助成金【注意:令和8年度は受付終了】
この助成金は、独立行政法人労働者健康安全機構が実施する制度です。助成を受けるのは事業主団体等または労災保険の特別加入団体であり、個々の企業ではありません。団体が傘下の中小企業などに産業保健サービスを提供した場合に、その費用が団体に対して助成される仕組みです。個々の企業に直接お金が入る制度ではない点に注意してください。
なお、令和8年度の交付申請は、予算上限に達したため7月10日で受付を終了しており、現時点での新規申請はできません。
制度の概要は下表にまとめました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施主体 | 独立行政法人労働者健康安全機構 |
| 申請者(助成対象) | ・事業主団体等 ・労災保険の特別加入団体 |
| 助成内容 | ・産業保健サービスの提供にかかる費用と事務費 ・助成率は費用と事務費の総額の90%、上限500万円(条件により1,000万円) |
| 注意点 | ・個々の企業は直接申請できない ・令和8年度の受付は終了している ・産業医の選任費用そのものは対象外 ・ストレスチェックの実施と集団分析は労働者50人未満の事業場限定 |
出典:独立行政法人労働者健康安全機構「団体経由産業保健活動推進助成金」 ※
制度2:エイジフレンドリー補助金 コラボヘルスコース【受付中】
この補助金は、高年齢労働者の労働災害防止と健康保持増進を目的とした制度です。中小企業が対象で、健康保険組合などと連携(コラボヘルス)して行う健康増進の取り組みに対して費用が補助されます。令和8年度は5月20日から10月31日まで受付していますが、予算がなくなり次第終了となります。
対象要件で特に見落とされやすいのが、労働者の数え方です。役員は含まれません。60歳以上が社長や役員だけという企業は対象外となるため、申請準備に入る前に自社の従業員構成を確認してください。
制度の対象となる要件と取り組みは、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象企業 | 中小企業事業主 |
| 主な要件 | ・役員を除き、60歳以上の労働者が常時1名以上いること ・事業主健診情報が保険者に提供されていること |
| 補助率・上限 | 補助率:4分の3、上限額:30万円(消費税除く) |
| 対象の取り組み | ・専門家による健康教育や研修(禁煙指導、メンタルヘルス対策など) ※対面での実施のみ(オンラインは対象外) ・栄養・保健指導 ・コラボヘルス推進システムの導入(初期費用のみ) |
| 対象外の費用 | ・健康診断、歯科健診、身体機能チェックの費用 |
| 申請方法の条件 | ・メンタルヘルス対策だけを単独で申請することはできない(対象の取り組みとしては認められるが、単独申請は不可) |
出典:厚生労働省「エイジフレンドリー補助金」 ※
このように、現在利用できる国の制度は、助成対象が団体に限定されていたり、対象となる企業の条件や取り組み内容が細かく定められていたりします。自社がこれらの要件に合致するか、慎重な確認が必要です。
国の制度は要件が合わないケースも多く、自社に合ったコスト削減の方法を見つけるのは難しいものです。何から手をつければ良いかわからない場合は、専門家に相談するのも一つの方法です。
自治体の認定による金融優遇制度3選【横浜・埼玉・福岡】

国だけでなく、一部の地方自治体でも健康経営を推進する企業への支援策が用意されています。ただし、前述のとおり、その多くは返済不要の給付金ではなく、融資条件の優遇です。ここでは、横浜市、埼玉県、福岡県の例を見ていきましょう。
3件を横断して比較すると、次のように整理できます。
| 自治体 | 制度名 | 支援の型 | 必要な認定 | 効果 |
|---|---|---|---|---|
| 横浜市 | SDGsよこはま資金(成長支援) | 融資+信用保証料の助成 | 横浜健康経営認証のクラスAA・AAA(クラスAは対象外) | 融資限度額2億8,000万円以内。信用保証料の0.25%を市が助成(融資額5,000万円分まで) |
| 埼玉県 | 健康保険協会・組合等連携保証「健やか」 | 信用保証(保証料の割引) | 連携健保等の認定事業所/健康経営優良法人/埼玉県健康経営実践事業所のいずれか | 信用保証料率が一般保証と比べて最大10%割引(区分により割引がない場合あり) |
| 福岡県・北九州市 | 地域みらい促進資金(特別枠)※北九州市の制度 | 融資(金利優遇) | 健康経営優良法人 | 一般枠より0.10ポイント低い利率で融資を受けられる可能性がある。福岡県全域の事業者向け金融優遇は確認できず |
いずれも支払った費用が戻ってくる制度ではなく、資金調達の条件が有利になる制度です。借入の予定がない企業にとっては、実質的なメリットが生じない点に注意してください。
【横浜市】認証クラスAA/AAA限定の融資・保証料優遇
横浜市では、市の健康経営認証を取得した企業向けに、融資制度「SDGsよこはま資金」を設けています。この制度を利用するには、認証クラスが「AA」または「AAA」である必要があり、「クラスA」は対象外です。
制度の詳細は以下のとおりです。
- 対象: 横浜健康経営認証のクラスAA、クラスAAAを取得した企業
- 内容:
- 融資限度額:2億8,000万円以内
- 利率:1年以内1.3%以内〜20年以内2.4%以内(返済期間によって決まります)
- 信用保証料:横浜市が0.25%を助成(融資額5,000万円分まで)
- 注意点: 保証料が全額免除されるわけではなく、一部が助成される形です。
出典:横浜市「SDGsよこはま資金(成長支援)」 ※
【埼玉県】3つの認定のいずれかで信用保証料が最大10%割引
埼玉県では、県信用保証協会が提供する「健康保険協会・組合等連携保証『健やか』」という制度があります。これは、健康経営に取り組む事業所が融資を受ける際の信用保証料が割引になるものです。割引を受けるには、次の3類型のいずれかに該当する必要があります。
「埼玉県健康経営実践事業所」の認定だけが条件ではないため、すでに健康経営優良法人の認定を持っている企業は、その時点で対象になり得ます。制度の概要は下記に整理します。
- 対象: 次のいずれかに該当する事業所
- 連携健保等の認定を受けた事業所
- 健康経営優良法人
- 埼玉県健康経営実践事業所
- 内容: 信用保証料率が一般保証と比べて最大10%割引
- 注意点:
- 割引率は料率区分により異なり、割引がない区分もあります。
- 前段階である「健康宣言事業所」の登録だけでは対象外です。
出典:埼玉県信用保証協会「健康保険協会・組合等連携保証『健やか』」 ※
【福岡県・北九州市】事業者向け優遇は限定的
福岡県では、健康経営に取り組む企業に対する、事業者向けの直接的な金融優遇は確認できませんでした。状況を整理すると次のとおりです。
- 福岡県全域: 健康経営に取り組む事業者向けの直接的な金融優遇は確認できませんでした
- 協会けんぽ福岡支部「健康づくり優良事業所」: 認定特典は従業員個人向けの住宅ローン金利優遇が中心であり、事業融資の優遇ではありません
- 北九州市「地域みらい促進資金(特別枠)」: 対象事業に健康経営優良法人の認定が含まれ、一般枠より0.10ポイント低い利率で融資を受けられる可能性があります
同じ九州圏でも市区町村単位で扱いが異なり、自治体によって支援内容に大きな差があることがわかります。自社の所在地の制度を、県・市の両方で確認しておくとよいでしょう。
助成金に頼らない!コストを抑えて健康経営を推進する3つの視点

ここまで見てきたように、健康経営に直接使える助成金は非常に少なく、活用できる企業は限られています。だからといって、健康経営を諦める必要はありません。
大切なのは、助成金に頼るのではなく、取り組みそのものの費用対効果を見極め、賢くコストを抑える視点です。
視点1:既存の産業保健活動を「認定のエビデンス」として活用する
多くの企業では、労働安全衛生法に基づき、すでに健康診断やストレスチェック、長時間労働者への面接指導などを実施しているはずです。実はこれらの活動は、健康経営優良法人の評価項目と深く関連しています。
健康経営の相談を受けていて最も多いのが、「認定を取るには新しい施策を始めなければならない」という思い込みです。実際には、法令上の義務としてすでに実施している産業保健活動の多くが、そのまま認定申請のエビデンスになります。対応関係を整理すると、次のようになります。
| すでに実施している産業保健活動 | 対応する認定の評価項目 | エビデンスとして使える記録 |
|---|---|---|
| 定期健康診断の実施と事後措置 | 健康診断の受診/事後措置 | 受診率の集計、就業判定・事後措置の記録 |
| ストレスチェックの実施と集団分析 | メンタルヘルス不調への対応/健康課題の把握 | 実施報告、集団分析の結果と職場改善の検討記録 |
| 産業医の面接指導、長時間労働者への対応 | 長時間労働の予防と事後対応 | 面接指導の実施記録、産業医の意見書 |
| 衛生委員会の開催と議事録 | 推進体制の整備 | 毎月の議事録、委員構成の記録 |
重要なのは、これらがすべてすでに費用を支払って実施している活動だという点です。新たな施策を追加するのではなく、記録の残し方と保管方法を整えるだけで、追加費用をかけずに認定申請の準備が進みます。
逆に、記録が担当者の手元に散在していたり、集団分析を実施したものの結果を議論した形跡が残っていなかったりすると、実態としては取り組んでいるのに評価されない、という事態が起こります。
新たに追加の施策を始める前に、まずは既存の活動を棚卸しし、どの評価項目に対応するかを紐づける作業から始めましょう。
視点2:産業医と連携し、施策の形骸化を防ぐ
健康経営の取り組みが「アンケートを取るだけ」「研修をやるだけ」といった形で形骸化してしまうケースは少なくありません。そうならないためには、医学的な専門知識を持つ産業医との連携が不可欠です。
産業医に依頼できる分析には、たとえば次のようなものがあります。
- ストレスチェックの集団分析結果から、職場環境の課題を抽出する
- 健康診断のデータから、生活習慣病のリスクが高い部署や年代を特定する
- 長時間労働者への面接指導の所見をもとに、業務量の偏りを把握する
- 施策の実施後に、健康指標の変化を医学的な観点から評価する
こうした専門的な分析に基づき、自社の課題に合った効果的な施策を立案することで、施策の「絵に描いた餅」化を防ぐことが可能です。効果的な健康経営と産業医の連携は、無駄なコストの削減にもつながります。
視点3:産業医費用は削るより設計し直す
健康経営の推進に産業医の存在は重要ですが、その選任費用が負担になるという声も聞かれます。産業医の費用は、企業の規模や訪問頻度、契約形態によって変わります。単純に金額を削るのではなく、自社の状況に合った契約形態を見直すことが有効です。
たとえば、訪問回数と実際に必要な職務内容が見合っているかを確認するだけでも、費用の見直し余地が見つかることがあります。産業医の費用を抑える方法について詳しくは、こちらの記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
>>産業医の助成金はない?費用を抑える3つの現実的な方法
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支援の流れは、次の4段階です。
| 段階 | 支援内容 |
|---|---|
| 1. 現状診断 | 既存の産業保健活動と評価項目の対応関係を整理し、不足している項目を洗い出します |
| 2. 施策の絞り込み | 多岐にわたる取り組み項目の中から、貴社の課題解決に本当に必要な施策だけをご提案します |
| 3. 体制設計 | 産業医や保健師、健康保険組合との役割分担を明確にし、現場が無理なく運用できる体制を構築します |
| 4. 認定後の運用 | 取り組みの記録・更新を継続できる形に落とし込み、翌年度以降の申請負担を抑えます |
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- 部署別・年代別に健康課題を可視化し、優先して取り組むべき対象を絞り込む
- 客観的な根拠に基づいたKPI(重要業績評価指標)を設定する
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まとめ
健康経営に直接使える国の助成金は、2026年8月現在ほぼ存在しないのが実情です。利用できる制度は要件が厳しく、自治体の支援も融資優遇が中心のため、既存の産業保健活動を活用するなど、助成金に頼らないコスト削減の視点が求められます。
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